2023年1月26日
北朝鮮 朝鮮半島

北朝鮮 軍事偵察衛星の狙いとは?ミサイル開発との関係は?

「最も短い期間内に、朝鮮民主主義人民共和国の初めての軍事衛星を発射する」

北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記は2022年12月末に行われた朝鮮労働党の中央委員会総会で行った演説で、軍事偵察衛星を近く打ち上げる方針を明らかにしました。

なぜいま、北朝鮮は軍事偵察衛星を開発するのか?
ミサイル開発との関係は?

北朝鮮の核・ミサイル開発に詳しい、防衛大学校の倉田秀也教授に解説してもらいました。

(中国総局記者 石井利喜)

北朝鮮の軍事偵察衛星について

軍事偵察衛星は、相手国の上空から画像の撮影や電波の傍受などを行うための人工衛星で、キム総書記は、2021年1月に発表した「国防5か年計画」で軍事偵察衛星の設計が完成し、近い期間の内に運用すると主張しました。

北朝鮮は、2022年12月に北西部にあるソヘ(西海)衛星発射場で準中距離弾道ミサイルとみられる2発を発射し、その翌日「偵察衛星の開発のための最終段階の重要実験」を行ったと発表し、ミサイルに取り付けたカメラから地上を撮影したと主張する、2枚の写真も公開しました。

偵察衛星開発の実験で撮影したとする写真(2022年12月公開)

写真について韓国の専門家は、首都ソウルとインチョン(仁川)に地形が類似しているとした一方、本物か疑わしいうえ、解像度が低く偵察衛星の能力に達していないとしています。

軍事偵察衛星の開発には相当な時間が必要だとして懐疑的な見方はありますが、倉田教授は、万が一、北朝鮮がアメリカ軍や韓国軍などの詳しい動向を人工衛星でより詳しく把握する能力を保持すれば、北朝鮮への抑止力の低下につながりかねないという見方を示しています。

衛星実験機を搭載して打ち上げたとする弾道ミサイル(2022年12月公開)

(以下、倉田教授の話)

なぜ、北朝鮮は軍事偵察衛星を必要としているのですか?

北朝鮮は軍事偵察衛星の開発を、「国防5か年計画」に挙げています。

「偵察する」ということは「動きを知る」ということです。

それでは「動き」とは一体何か。それは、朝鮮半島有事の際に展開されるであろうアメリカ軍の空母など「動く標的」の動向を見ることです。

北朝鮮が知りたい「動く標的」とは?

キム総書記は2022年3月に国家宇宙開発局を視察したと伝えられた際、「軍事偵察衛星の開発と運用の目的は、南(韓国)地域と日本地域、太平洋上でアメリカ帝国主義の侵略軍とその追従勢力の軍事行動の情報をリアルタイムでわが軍に提供することにある」と発言しています。

この中の「リアルタイム」がキーワードです。

北朝鮮は、朝鮮半島の有事の際に基地や司令部など固定されたターゲットを攻撃するとしていますが、それに加えて、アメリカ軍の空母打撃群などを攻撃するため、その動向をリアルタイムで知ろうとしているとみられます。

国家宇宙開発局を視察するキム・ジョンウン(金正恩)総書記(中央・2022年3月公開)

北朝鮮のねらいとは?

北朝鮮は2022年1月に中距離弾道ミサイルの「火星12型」を発射したと発表したとき、ミサイルに取り付けたカメラで宇宙から撮影したとする地球の画像を公開しました。

「火星12型」に取り付けたカメラにより撮影されたとする画像(2022年1月公開)

「火星12型」は本来、偵察衛星の開発とは関係がありませんが、なぜ関係づけるように発表したのでしょうか。

「火星12型」はグアムにあるアメリカ軍の基地を攻撃するための弾道ミサイルと考えられていましたが、私は、新たに「偵察衛星」で集めた情報を利用し、「火星12型」でアメリカ軍の空母打撃群などを攻撃する役割が加わったとみています。

そうした能力を持つことで、北朝鮮は、アメリカに対して、朝鮮半島での戦争の際、空母打撃群を派遣するのを思いとどまらせたいのだと考えています。つまり、北朝鮮への抑止力の低下にもつながりかねないとも言えるでしょう。

※中距離弾道ミサイル「火星12型」は2022年1月30日、北部チャガン(慈江)道から、通常より角度をつけて高く打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射。韓国軍は高度が2000キロ、飛行距離はおよそ800キロだったと発表しました。2017年9月に通常角度で発射された際には飛行距離がおよそ3700キロに達したと推定され、アメリカ軍の基地があるグアムまでの距離を上回りました。2023年1月には、キム総書記が娘と一緒に、20基以上並べられた「火星12型」を視察した写真も公開されました。

北朝鮮はかつて「地球観測衛星」と称し、事実上の長距離弾道ミサイルを発射しましたが、今回は?

「地球観測衛星」は地球全体を撮影し、洪水などの災害や気象状況を調べることなどを目的に使われます。

北朝鮮はこれまで「人工衛星」の打ち上げを口実に、ICBM=大陸間弾道ミサイルの開発を進めようとしました。北朝鮮はすでにICBM級の「火星17型」を発射し、1万5000キロを飛行させる技術を持っているとされています。今回は額面通り軍事偵察衛星と見るべきだと思います。

軍事偵察衛星の開発の実現性は?

「国防5か年計画」はあらゆる戦争に対応するため装備を備えるという、彼らの意思を示したものです。言うなれば内容がてんこもりで、2025年までにすべて開発できたら奇跡に近いと思っています。

軍事偵察衛星は「飛ばせばいい」というものではなく、飛ばしたあとに衛星で得た対象の情報を地上に送って解析して、その対象を撃つということまで含んで運用するものです。北朝鮮がそのすべを完成させるのに何年かかるのかは分かりません。しかし、軍事偵察衛星の開発を考えていることは事実ですし、打ち上げる衛星は1基にとどまらないのは確実だと思います。

防衛大学校 倉田秀也教授

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