関西電力が主導し、中国電力、中部電力、九州電力の4社が、地域独占時代の自社エリアを越えた顧客獲得を控えるようカルテルを結んだとして、公正取引委員会は2022年12月1日までに処分案を通知した。課徴金は関西電力を除く3社合計で1000億円と過去最大だ。
 カルテルが行われていたとされるのは2018年から2020年にかけてのこと。当時、大手電力の変化に気付いていた大口顧客や新電力は少なくない。公開データを見ても、関電らがエリア外での営業を手控えた様子が見て取れる。大手電力同士の競争は電力自由化の本丸。なぜ4年も放置されたのか。そもそも、なぜカルテルは始まったのだろうか。

 「関電の社内で安値競争をやめないとまずいという声が上がっている」。こうした声を関電の関係者から聞く機会が増えたのは、まさに2018年のことだ。カルテルが起きた背景を理解するには、まず2017年に始まった関電の値下げ攻勢について振り返る必要がある。

 関電は電源構成に占める原子力発電の割合が大きい。東日本大震災後、全国の原発が停止した影響は大きく、関電は2013年と2015年に値上げを実施している。その後、2016年に電力全面自由化を迎え、新電力や他の大手電力との競争が始まると、既存顧客を奪われる状況が続いた。関電が反転攻勢に出たのは2017年後半。原発が再稼働するやいなや、すさまじい値下げ攻勢を全国各地で展開し始めたのだ。

 大きかったのは、東京電力子会社のテプコカスタマーサービス(TCS、東京・港)の存在だろう。2016年の全面自由化に際して、他地域の大手電力や、ガス会社、通信事業者などの異業種からの新規参入事業者などが最重要エリアとして、営業拠点を構え、顧客獲得を試みたのは、市場規模が大きい首都圏、つまりは東京エリアだった。東電グループは、この状況に指をくわえて傍観するわけにもいかず、東京以外をサービスエリアとする子会社のTCSを使った対抗策に打って出たのだ。

 「TCSに攻め込まれた関電など大手電力各社は、大々的な値引きで応戦した」(電力業界関係者)。TCSと関電を中心に、大手電力各社が激烈な顧客争奪戦を展開した。まさに日本の電力自由化が目指した市場の姿の一端が、見えた時期と言える。

 徐々にシェアを拡大していた新電力は、関電やTCSなど大手電力各社に次々と顧客を奪還され、手の打ちようのない状況だった。例えば、「関電の電力とガスのセット販売は、関西最大の都市ガス事業者の大阪ガスですら太刀打ちできないほどの低価格だった」(関係者)。

 新電力に契約を切り替えようとした需要家(顧客)に対して、契約をつなぎ留めようと極端な値下げ提案を行う「取り戻し営業」が問題となったのも、この時期だ(経済産業省はその後、取り戻し営業の規制に乗り出した)。

 関電の安値攻勢に起因するエピソードは枚挙にいとまがない。ライバルの大ガスが出資する地域新電力「いこま市民パワー」に対して、奈良県生駒市の一部の住民が住民監査請求を提起したのも2018年だ。その理由は、関電が周辺自治体の公共施設の電力入札を軒並み極めて低い価格で落札しており、生駒市が周辺市より割高な電力を購入しているというものだった。

 このように2018年の電力業界は、関電の値引き攻勢の話題で持ちきりだった。関電の安値は、当時の日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場価格を下回ることもあり、発電所を一定保有しているガス会社も含めて、新電力には到底提供できない水準だった。

 新電力の中には、「卸市場価格よりも安価な料金は不当廉売ではないか」「独占時代に建設した設備を利用した安値攻勢は私的独占に当たるのではないか」と、電力・ガス取引監視等委員会や公取に申告したところもあった。

「大手電力から理由なく見積もり依頼を断られた」

 ただ、ある時を境に様子が一変する。全面自由化後、大手電力各社は徐々に営業エリアを拡大しており、当時は大手電力各社から相見積もりが取り放題だった。ところが、地域独占時代の自社エリア以外での見積もり提案を辞退するようになったのだ。

 ある企業の電力調達担当者は当時をこう振り返る。「2017年は関西エリアや中部エリアで複数の大手電力から見積もり提案を受けることができた。ところが、2018年は明確な理由なく見積もり依頼を断られ不審に思った」

 今思えば、こうした対応の変化の背景にカルテルがあったのだろう。今回の電力カルテルは、関電が中部電、中国電、九電それぞれにエリアを越えた顧客獲得を控える“相互不可侵”を提案し、3社がこれを受けたとされる。大手電力が旧自社エリア以外での見積もり提案を辞退するようになったことと符合する。

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