「国民に対する背信だ」原子力規制委、経産省と不透明なやりとり 原発60年超巡り面談7回、内容公開せず

2022年12月28日 06時00分
 原子力規制委員会事務局の原子力規制庁は27日、原発の運転期間の見直しを巡り、担当者が山中伸介委員長から検討指示を受ける前の7〜9月、経済産業省資源エネルギー庁(エネ庁)の担当者と少なくとも7回にわたり面談をして情報交換していたことを明らかにした。山中委員長は、原発推進側の経産省とのやりとりは公開するよう指示しているが面談の内容は、非公開にされている。規制委の透明性が揺らいでいる。

◆「(規制対象の)電力会社との面会ではない」

記者会見で説明する原子力規制庁の黒川陽一郎総務課長=27日、東京都港区で

 規制庁によると、経産省との面会は、岸田文雄首相が原発政策見直しの検討を指示した翌日の7月28日。経産省側からの呼び掛けで始まった。その後、委員長らに報告しないまま面会を重ねた。
 8月29日には規制庁職員が規制委を所管する環境省への説明資料を作成。現行の原子炉等規制法(炉規法)の「原則40年、最長60年」とする規定が、経産省が所管する電気事業法に移管されることや、炉規法に長期運転への規制手法を新設するなど、方向性の詳細が記載されていた。
 山中委員長は10月5日の定例会で、規制庁に対して運転期間が見直された場合の規制について検討を指示し、経産省とのやりとりは透明性を確保することも求めた。規制庁はこれ以降の面談録はホームページで公表しているが、指示前の面会内容は公表していない。
 規制庁はNPO法人原子力資料情報室からの指摘を受けて調査。黒川陽一郎総務課長は会見で「面会では経産省側の情報伝達を受け、政策の協議や調整はしていない。(規制対象の)電力会社との面会ではないので、面談録を作らなかった」と説明した。

◆「規制と推進が一体化」福島第一原発事故の反省どこへ?

 原発の運転期間見直しは、原発の規制と推進を分離するために発足した原子力規制委員会事務局の原子力規制庁と、推進側のエネ庁が非公開の場で綿密に情報交換しながら進んでいた。27日の記者会見では規制庁職員が釈明に追われ、市民団体からは「規制と推進が一体化している」と批判の声が上がった。
 「規制に関する意思決定は委員5人の合議で行う。規制委の案をエネ庁に伝えたことはなく、問題はなかった」。規制庁の黒川陽一郎総務課長は、記者から再三にわたって経産省とのやりとりの妥当性を問われ、同じ答えを繰り返した。
 検討は委員長らに報告しないまま、水面下で進んだ。8月19日には経産省側から見直しのイメージが伝えられ、その4日後には規制庁長官ら事務方の幹部が集まり、検討を始めることを決定。この時点でも、委員長に報告はしなかった。金城慎司原子力規制企画課長は「経産省の検討も不確かで、まだ報告する内容ではないと思った」と話す。
 8月29日には、具体的な法改正の段取りや、運転延長は経産相が認可するなどの詳細が記された資料を規制庁職員が作成。それだけの情報が既に経産省からもたらされていた。山中伸介委員長が規制庁に検討を指示したのは、それから1カ月余りたった後だ。
 山中氏の指示以前は、経産省との面会の記録を作成していないことも判明。黒川氏は「規制対象ではない省庁とは日常的にさまざまなやりとりがあり、記録を作成するのは難しい」と言葉をにごした。

「原子力の推進と規制が一体化している」とオンライン会見で批判する松久保肇さん

 問題を指摘してきたNPO法人原子力資料情報室の松久保肇事務局長も、27日にオンラインで会見。「福島事故の反省で切り離した規制と推進が融合してしまっている。非常に由々しき事態だ」と、規制委の独立性を危ぶんだ。
 最長60年とする原発の運転制限は、東京電力福島第一原発事故後の法改正で導入された。松久保氏は「福島事故の反省に真っ向から挑戦するもので、経産省の越権行為だ」とした上で、7月から事務方間でやりとりしていたことに対し「これでも透明性に問題ないというのは、国民に対する背信だ」と非難した。(小野沢健太、増井のぞみ)

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