アングル:「嵐」に見舞われる欧州洋上風力発電、脱炭素目標に黄信号

アングル:「嵐」に見舞われる欧州洋上風力発電、脱炭素目標に黄信号
 9月28日、 洋上風力発電業界は、サプライチェーン(供給網)の混乱、風力発電装置の設計上の問題、コストの上昇などが重なり、嵐のような逆風にさらされている。写真は仏ルアーブルのオフショア風力発電施設の基礎建設現場で2022年5月撮影(2023年 ロイター/Pascal Rossignol)
[ロンドン 28日 ロイター] - 洋上風力発電業界は、サプライチェーン(供給網)の混乱、風力発電装置の設計上の問題、コストの上昇などが重なり、嵐のような逆風にさらされている。このため数十件の開発プロジェクトに支障が生じており、各国の気候変動目標の達成にも影響が及ぶ恐れがある。
化石燃料への依存度を引き下げる競争により、メーカーや部品サプライヤーには、よりクリーンなエネルギーの需要の高まりに応じるよう圧力が掛かっている。
特に2030年までにエネルギーの42.5%を再生可能エネルギーで賄うという法的拘束力を持つ目標を最終決定している欧州連合(EU)では、プレッシャーが顕著だ。
業界団体のウインドヨーロッパによると、EUが再生可能エネルギーの比率を現在の32%から新たな目標の42.5%に引き上げるには、風力発電容量を今の205ギガワット(GW)から420GWへと2倍以上に引き上げ、洋上風力発電容量は17GWを103GWへと大幅に増やす必要がある。
しかし、今年に入って英国、オランダ、ノルウェーの洋上プロジェクトが、コスト高と供給網の制約のために延期または棚上げになった。また、英国では再生可能エネルギー向け補助金の入札で、洋上風力開発業者からの応札が皆無だった。
ジュピター・アセット・マネジメントの投資マネジャー、ジョン・ウォレス氏は「もし、これがプロジェクトの長期休止につながれば、2030年の再生可能エネルギー目標の多くは、達成が厳しくなるに違いない」と話す。
EUが今年、新たな再生可能エネルギー目標で合意する以前から、オルステッド(ORSTED.CO), opens new tab、シェル(SHEL.L), opens new tab、エクイノール(EQNR.OL), opens new tab、風力タービンメーカーのシーメンス・ガメサといった企業が、洋上風力産業の規模は気候変動目標の達成に不十分だと警告していた。
新型コロナウイルスのパンデミックを発端とする供給網の混乱は、ウクライナ戦争で一段と深刻化。一方で、輸送コストや原材料費の高騰、金利の上昇、インフレで利益が圧迫されている風力発電事業者もある。
ドイツのエネルギー大手RWE(RWEG.DE), opens new tabのマルクス・クレッバー最高経営責任者(CEO)は交流サイト(SNS)への投稿で、洋上風力発電産業は急速な拡大が予想されるタイミングでさまざまな問題が重なり、気候変動目標の達成が危うくなっているとの見方を示した。
<巨大化のわな>
洋上風力発電は過去20年間に急成長を遂げ、一部の国ではコストが化石燃料と同等か、それ以下になった。だが、タービンをより大きく、より効率的にしようとする開発競争が性急すぎたのではないかといった指摘が、経営者やアナリストの中から出ている。
タービンの大きさは10年ごとにおよそ2倍になり、2021年と22年に稼働した最大級のタービンはブレードの長さが110メートル、出力が12─15メガワット(MW)もある。
しかし、大型化すればするほど故障しやすくなると、コンサルタント会社サンダー・サイド・エナジーのアナリスト、ロブ・ウェスト氏は指摘する。ブレードは大きくなればなるほどたわみが大きくなり、より剛性の高い補強材が必要になるという。
シーメンス・ガメサは今年6月、最新の陸上風力タービン2基の品質問題への対処に16億ユーロ(17億ドル)の費用がかかると発表した。
再生可能エネルギー事業向け保険を扱うGキューブ・インシュアランスのフレイザー・マクラクランCEOによると、風力発電事業者からの保険金請求件数はこの1年で減少したが、請求額は大きく増え、深刻さの度合いも高まっている。「洋上風力発電市場への参入は、保険会社だけでなく、メーカー、デベロッパー、サプライヤー企業にとってもリスキーなビジネスになっており、存続の危機に直面している企業もある」と話す。
シーメンス・ガメサのヨッヘン・アイクホルトCEOは、同社の洋上風力発電事業が生産拠点の建設遅れ、供給網の混乱、品質の高い部品の不足など、陸上風力発電とは異なる問題に直面していると述べた。
大手タービンメーカーのベスタスも受注残の解消に苦戦しており、供給網の混乱は年内いっぱい続くと見込んでいる。
<応札なし>
一方で、各国政府は洋上風力発電のライセンス入札を強化している。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスによると、2024年末までに世界中で成立する洋上風力発電の契約とリース案件は、総規模が60GW余りに達する見込みだ。
だが、一部の風力発電事業者は入札で提示される電力価格について、コスト上昇という業界が抱える問題を考えると、新規プロジェクトに着手するには低すぎると訴えている。
英国は2030年までに洋上風力発電容量を3倍の50GWに増やすことを目標としている。しかし、8日の入札では風力発電事業者からの応札がなく、見通しに暗雲が垂れ込めたとの声が専門家から聞かれた。
一部の入札では再生可能エネルギー事業者が、環境に優しい資産を求める大手石油・ガス会社に競り負けており、欧州委員会は今月、包括的な支援策を打ち出す方針を示した。

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トムソン・ロイター

Oversees and coordinates EMEA coverage of power, gas, LNG, coal and carbon markets and has 20 years' experience in journalism. Writes about those markets as well as climate change, climate science, the energy transition and renewable energy and investment.