斉木愛子 氏
「社外取締役になるには、待つだけでなく積極的に立候補」

1月 17, 2023 | Interview

斉木 愛子 氏

株式会社パレスサイドコンサルティング 代表取締役CEO

株式会社PRAS 取締役・PRコンサルタント

株式会社ファンドクリエーション 社外取締役

 

 

―現在関わっている企業に関して

自身の会社では広報コンサルティングを軸に、その中でもサステナブル経営を推進する企業の開示支援をしています。また株式会社PRASではスタートアップや上場したてのベンチャー企業を中心に、広報コンサルをやっています。

加えて、2022年2月から不動産ファンドを運営するファンドクリエーションで社外取締役をしています。その他にも、VC(ベンチャーキャピタル)のココナラ・スキルパートナーズにPR /ESGコンサルタントとして参画して、ファンド投資先会社の起業家に対してPRやESG領域のメンタリングなどにも幅広く携わっています。

 

 

PR(Public Relations)を専門に、広報戦略の策定からサポート

PRというと、特にスタートアップなどでは「プレスリリースを出すこと」や「メディア露出を獲得すること」がゴールになってしまっているケースが多いです。これらは手段のひとつにはなりますがゴールではないので、その先にどういった経営目標を達成したいのか、まずは広報戦略を立てることからスタートします。

企業が広報活動を通してどのようなパーセプションを獲得したいのか、今の会社の状態と3年後や5年後に描く会社の状態、この間のギャップを広報の力でどう埋めていくのかを明文化します。広報活動の主目的も事業経営の状態に合わせて、顧客獲得が最優先事項なのか、採用での認知獲得が課題なのかによって広報活動の内容も大きく変わってきます。

例えば、エンジニア採用がボトルネックで足元では事業が拡大できていないとするなら、エンジニア採用のための自社の魅力づけポイントはどこか、採用の競合優位性がどこにあるのか、など情報開発・整理をするところからお手伝いします。

他にも、BtoB/IT企業だとマスメディア露出を狙うよりも、自社のプロダクトやサービスを正しく認識してもらうためにオウンドメディアで事例を紹介したり、取材ではなく寄稿というかたちで露出数を伸ばしていったり、という方針をとる場合もあります。

こういったかたちで、まずは広報戦略がきっちり固める、次に必要な手段・チャネルとしてマスメディアへの露出、オウンドメディアやSNS運営など、その方針で進めるお手伝いをすることが多いです。

 

 

 

社外取締役でも “事業成長の伴走者”として、Board3.0を実践

「Board3.0」と最近叫ばれている概念が私の軸と似ているのですが、

これはアドバイザリー・ボードのBoard1.0、がモニタリング・ボードのBoard2.0の概念と違って、PEファンドが出資する先に株を取得するとともに経営ノウハウを伝授して企業成長を促すものです。

ただ単に監視・監督をするにとどまらず、「経営目線でも株主目線でも意見も提言する」というのが社外取締役として自分が意識している役回りです。

監視・監督だけだとガバナンスは効くかもしれませんが「伴走」しきれないと思うので、

監視・監督といった「守り」のモニタリング機能は他の取締役の中でも士業の方々(弁護士先生や会計士先生)に担っていただいているならば、私はよりポジティブな「攻め」の切り口での提言を心がけています。

「こういう経営判断をしたら従業員にプラスになるのでは」とか、「こういう見せ方で認知が取れたら事業成長につながるのでは」など、事業成長に伴走した当事者目線での提言というのが、私の社外取締役としての働きかけ方の根底にあります。

 

Board3.0の考え方を実践するために、社外取締役の役員報酬を「現金ではなく株式として受け取りたい」とお願いすることもありました。自らが株式を保有することで、株主と同じような目線に立てますし、 「報酬を株価と連動させる= 株主の立場で企業成長の経済的リターンを享受とする、つまり会社が成長しなければ自分の経済的リターンもなし」という形になるので、そのようなインセンティブ設計を提案しています。

 

 

 

初めて社外取締役に就任した際に感じた「どこまで突っ込んだらいいの?」という苦労

やはり取締役といっても社外なので普段の企業情報の格差や、距離感の掴み方などに初めは迷う部分もあって苦戦しましたね。

取締会で議題に上がるような内容ではなくそれ以外の部分って、自分で能動的に情報をとりに行かないと中々取得することが難しいので、会話されている中で背景がよく分からないものがあったり、外部の人間としてどこまで突っ込んで質問したり議論に参加していいものか、取締役会に参加する上では正直すごく迷う部分がありました。

これを解消するために、今は取締役会への参加だけではなく別途、「経営陣と私の個別戦略会議」を月1回設定してもらって、社長の壁打ちや取締役会で話されていた議題についてのアップデートをしてもらい、そこに対して具体的なアドバイスをしたりと、よりざっくばらんな場を設けています。

 

 

 

斉木さんの考える女性の「リーダーシップ」とは

リーダータイプも多様化していて、従来の「牽引型」としてぐいぐい引っ張って背中を見せるカリスマ的なタイプとは異なり、「共感型」のようなタイプも多いと言いますよね。また「支援型」のようなサポート側に回って部下をチアーアップするタイプなどいろいろなスタイルがあると認識しています。

リーダーシップというと力強いイメージがあるような気がしますが、今は必ずしもそうではなくて色んなタイプのリーダーシップがあるので、自分自身にあったリーダーシップタイプを模索して、世の中に求められているリーダー像に合わせにいくのではなく、自分がどんなリーダー像に近いのか、どんな人がロールモデルに近いか、などを見定めるのが良いと思います。

私自身は、自分の考えを押し付けるようなトップダウン意思決定をするのではなく、なるべくフラットな組織でみんなが意見を聞き合い、お互いに成長していけるような組織にしたいと思っています。今関わっている会社においてのマネジメントスタイルとしては、対峙している意見を聞きつつ、最適解を皆で探っていくように心がけています。

 

 

 

女性社外取締役を揃えるのは形式的でもまずは構わない。

日本全体のことを考えると、多少は下駄を履かせてでも女性の数を増やし、ロールモデルを増やしていかないと、社会全体や人々の意識が変わっていかないと思います。

なので、女性社外取締役もまずは女性なら誰でもという「お飾り」で入れている会社も正直なくはないと思いますが、最初の第一歩はそれでもいいと思うんですよ。

私自身も色んな組織で男性社会の中で紅一点女性としてジョインすることも多かったのですが、私が入ることによって新しい視点が生まれていると思っているので。

同質性が高い男性のみでの議論って、その場にいると違和感を感じる局面が多かったです。そこに私のようにバックグランドの違う人間が一石投じるというのは、どんどん積極的に行われていくべきだと思います。

なので最初は形式的でもいいので、まずは女性社外取締役を 増やす、増える、というのは良いことだと思います。例え発言しなかったとしてもただ存在するだけで女性軽視やセクハラ発言も出なくなると思いますし。そういう意味だと性差だけではなく年齢やスキル、人種などのバックグラウンドの多様性は今後もっと加速していくでしょうね。

 

 

ESG・人的資本の開示における今後のポイント

私が携わっている会社は特に上場を目指しているスタートアップや上場したてのベンチャーなどが多いので、ESGや人的資本の部分で注力していく領域はまだあまり確立されていない会社が多んですね。

でも出資する側のVCなどからの外的圧力が出てくると思います。例えば女性役員を1名以上入れないと出資をしない、とか、ボードメンバーに女性がいない場合はガバナンスが効いていないとみなして取締役会で反対票を投じます、という投資会社も実際出ています。

なので、ベンチャー企業のESGはまずGから、まずはボードメンバーのジェンダーダイバーシティが目先の課題になってくると考えています。

 

 

社外取締役になるためは、待っているだけでなく積極的に立候補する!

近年の流れから社外取締役になりたい、と考えている女性も増えてきたと思います。ただ待っているだけではチャンスは回ってこないので、「自分はこのようなスキルバックグラウンドで社外取締役をやってみたい」と意思表示をしたり、この「GetHer」のようなプラットフォームに登録するのも第一歩だと思います。

私自身も外部コンサルで携わっていた会社に対して 社外取締役としてより長期的に企業成長にコミットしたいと思うようになって、自分で「社外取締役の提案書」を出して社長に直接アピールしたこともあります。

 

 

そのためには自分の略歴や、スキルマップの観点での強みや経験値を明文化します。例えば、育児と仕事の両立をしている経験や海外勤務時代のマイノリティとしての就業経験が、ダイバーシティの観点で強みとなったり、銀行・証券勤務によるファイナンスバックグラウンドの豊富さ、またベンチャー企業に対してはPR、IR更にはGRなど関係省庁に対してのロビイングの経験があること、などアピールポイントを挙げます。

そして最近だとDXのバックグラウンドを求めている会社が非常に多い中で、私自身が前職時代に得たブロックチェーンの知見などをもとに、先端テクノロジーへの理解がありますと話すこともありますね。

 

なので社外取締役への第一歩は、まず「私は社外取締役をやりたい」というのを第三者に公言し認知してもらい、自分がどのような部分で貢献できるかをきっちり明示していく、というのがまずは重要だと思います。

 

 

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