多くの企業や家庭にとって新たなコスト負担となる脱炭素シフト。いかに負担を軽減しながら、達成への道筋を描けるかが大きな課題となる。再生可能エネルギーは料金が高いという電力業界の常識に新たな発想で挑み、収益も生むビジネスが生まれ始めている。

東京ガスと英オクトパスエナジーの合弁会社「TGオクトパスエナジー(東京・中央)」のオフィス(写真:的野弘路)
東京ガスと英オクトパスエナジーの合弁会社「TGオクトパスエナジー(東京・中央)」のオフィス(写真:的野弘路)

 東京都中央区のオフィスビル。2021年1月、英国の新興エネルギー会社、オクトパスエナジーが日本市場への進出に当たり、東京ガスとの合弁で設立したTGオクトパスエナジーの本社がここにある。オフィス中央にあるのはカスタマーサポートセンター。正社員だという総勢二十数人で全ての顧客の対応を担う。担当者1人がカバーする顧客数は数千人にも上るという。

 22年1月の本格的な事業開始から今年3月までのわずか1年強で、同社は20万件の顧客を獲得した。エネルギー価格の高騰で多くの新電力が苦境に立たされたのとは対照的に、顧客件数を伸ばし続けている。23年度に40万件、26年度には100万件の目標を掲げる。

■本連載のラインアップ(予定)
ホコリも酒かすも 「捨てずに生かす」がヒットのカギ
・再生エネでも安く 英国発オクトパスが変える電力業界の常識(今回)
・子供に“甘くない”チョコにはNO 脱「児童労働」の値上げに好感
・ネスレやイケアも卵革命、食品企業で広がる「ニワトリの権利」
・カーライルも100億円投資 スパイバー、バイオ繊維で世界へ

顧客1人当たりのコストが圧倒的に安い

 顧客を引き付ける理由の一つが料金の安さだ。首都圏の電気代は「東京電力ホールディングスの規制料金とほぼ同程度」(同社)と、他の新電力と比べても割安な水準に抑えている。加えて、非化石証書が付いた、事実上の再生可能エネルギー由来のメニュー「グリーンオクトパス」を主力とし、環境意識の高い顧客を取り込んでいる。

 オクトパスエナジーは15年創業。本国の英国では「ビッグ6」と呼ばれる大手電力の壁を切り崩し、業界2、3番手に位置する。22年4月期の売上高は前期比2.1倍の42億ポンド(約7560億円)。電力小売事業では世界9カ国に展開し、顧客数は計530万件に上る。

 なぜ調達コストの高い再生エネ由来の電力をTGオクトパスは安価に販売できるのか。

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