深層リポート

東北発 既設ダムで進む増電、今年度の目標は2千万キロワットアワー

昨年8月、8万キロワットアワーの増電を実現した四十四田ダム=盛岡市(北上川ダム統合管理事務所提供)
昨年8月、8万キロワットアワーの増電を実現した四十四田ダム=盛岡市(北上川ダム統合管理事務所提供)

国土交通省と水資源機構が管理する全国72のダムで令和5年度から洪水調節でダムにため込んだ雨水や未利用の雪解け水を有効活用して発電量を増やそうという取り組みが進められている。既設ダムの運用の高度化を図る国交省のハイブリッドダムの取り組みの一環だ。令和4年度は国交省が管理する全国6ダムの試行で約215万キロワットアワー(一般家庭約500世帯の年間消費電力量に相当)を増電、今年度はその約10倍となる約2千万キロワットアワーの増電が目標だ。

既設ダムの増電の取り組みは、政府目標の2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラルの達成に向けて、温室効果ガスの二酸化炭素が発生しない水力発電のより一層の促進を図るのが狙い。

気候変動に伴う水害の激甚化と頻発化を受けて、国交省は3年前から記録的な大雨が予想される場合に管理するダムの貯水をあらかじめ大量に減らしておく事前放流を実施するなど、既設ダムの運用の高度化に取り組んできた。

洪水後期放流で

令和4年度の全国6ダムの増電はこの延長線上にある。治水が大きな役割のダムは洪水調節で水をため込む。5ダムは洪水の危機が去って水位を通常に戻すために放流する水の一部を発電に活用するという洪水後期放流の工夫で増電を実現した。

残る1ダムは春先に急増する未利用の雪解け水を活用した。それまで平常時最高貯水位を超えた雪解け水はそのまま下流に放流していた。そこで、同最高貯水位を50センチ上げて、その分を発電に活用する非洪水期の弾力運用で増電にこぎつけた。

ただし、各ダムは細心の注意を払って増電を実施した。洪水調節機能に影響が出たり、農業用水など利水用の水が不足しては本末転倒になるからだ。この6ダムのうち半分の3ダムは東北で、岩手県の四十四田(しじゅうしだ)ダム、山形県の月山ダム、秋田県の玉川ダム。

四十四田ダムを管理する北上川ダム統合管理事務所の菊池真樹副所長は「気象調査機関と契約、流域のセンサー情報を集め、AIも駆使して細心の注意を払った」と話すほど。48時間以内に90ミリの雨はないの判断で昨年8月5~8日に実施した洪水後期放流の工夫で8万キロワットアワーを増電した。

課題は気象予報

月山ダムは当面は連続して30ミリを超える雨はないという判断で、昨年8月5~10日、同8月19日から9月6日までの2度、洪水後期放流を工夫して77万4千キロワットアワーの増電を実現した。平常時最高貯水位を50センチ上げた玉川ダムは昨年4月下旬から5月下旬に未活用だった雪解け水で20万9千キロワットアワーの増電を達成した。令和4年度に全国6ダムで増電された約215万キロワットアワーのほぼ半分は東北の3ダムで増電された計算になる。

今春、93万7000キロワットアワーの増電に成功した胆沢ダム=岩手県奥州市 (北上川ダム統合管理事務所提供)
今春、93万7000キロワットアワーの増電に成功した胆沢ダム=岩手県奥州市 (北上川ダム統合管理事務所提供)

さらに、岩手県の胆沢ダムは今年2月15日~4月20日に未活用だった雪解け水で93万7千キロワットアワーの増電に成功した。3月中旬から急増する雪解け水は、平常時最高貯水位を超えて、毎年1億立法メートルが未活用のまま放流されていた。この未活用分を先取りして発電することで増電した。

72ダム中13ダムは東北。所管する国交省東北地方整備局の河川管理課も「東北のダムが多く、増電が期待できる」としている。ただ、現場担当者は「増電量の拡大には気象予報の精度をさらに上げることが課題」と口をそろえる。国内の既設ダムでどれだけ増電が進むのか注目される。

ダム 河川法でダムは基礎地盤から堤頂までの高さが15メートル以上のものをいう。洪水調節は防災操作ともいわれ大雨でダムへの流水量が一定の基準を超えた場合に放水量を増やさずに水をため込んで洪水を防ぐ操作。水量が厳格に決められており、発電や農業用水、都市用水への利水量も同様で細心の注意を払って運用されている。

記者の独り言 新米記者時代に「憲法の次に強い法律は河川法だ」とある公務員に教わった。「国民の生命・財産に直接関係するからだ」と説明された。「なるほどな」とうなずいた記憶がある。大好きな戦国大名の一人、武田信玄は治水に優れた業績を残した。今も地元で尊敬を集めるのもこのためだろう。ダムの運用の高度化が増電と治水を両立しながら進むことを願うだけだ。(石田征広)

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