太陽光発電パネル、リサイクルどうなる? 大量廃棄へ備え急務 企業、自治体の動きは

2023年4月15日 07時59分

自社の装置でガラスから分離された太陽電池を手にするエヌ・ピー・シーの伊藤雅文社長=東京都台東区で

 脱炭素社会実現に向け、太陽光発電が普及する中、2030年代に始まるとみられる使用済み太陽光パネルの大量廃棄に備える動きが広がっている。企業はリサイクル事業に参入し、自治体は効率的なパネル回収の仕組みを整えようと動く。国は5月までに有識者検討会を発足させ、リサイクル強化に向けた制度新設などを検討していく。 (押川恵理子)

◆樹脂の分離に新技術も

 太陽光発電は東日本大震災後の2012年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)によって急拡大。パネルの寿命は一般的に20〜30年とされ、環境省は30年代後半に最大で年間50万〜80万トンの使用済みパネルが出るとみる。
 同省の推計では20年度のパネル排出量は少なくとも6300トン。自然災害の破損品が多く、約7割が修理し再利用された。今後、耐用年数の過ぎたパネルが大量に出ると埋め立て処分が増える懸念がある。リサイクル率が高い処理ほど費用がかかるからだ。パネルは頑丈に造られ、太陽電池を覆って保護するガラスと樹脂の分離などが難しい。
 そんな中、太陽光パネルの製造装置販売や検査などを手掛けるエヌ・ピー・シー(東京都台東区)は培った製造の技術を応用し、リサイクル事業に参入。約300度に熱したナイフで樹脂を切断し、ガラスを割らずに金属などから分離できる技術「ホットナイフ分離法」を生みだした。マテリアルリサイクル(物から物への再生)の割合は96.9%という。
 同社はガラス分離など一連のパネル解体作業を自動化した装置を18年から販売。1億円以上と高額だが、現在までの納入実績は7台に。うち1台はフランスのパネル回収とリサイクルを担う非営利団体が活用している。伊藤雅文社長は「技術的には太陽光パネルに再生する『水平リサイクル』(同じ種類の製品につくりかえるリサイクル)も可能」と話す。高度なリサイクル技術を実社会に役立てるため、回収したガラスの用途開発にも取り組んでいる。
 産業廃棄物の中間処理などを手掛けるリーテム(東京都千代田区)は20年からパネル再資源化を本格化。既存の破砕設備を使って処理コストを抑え、大量の受け入れが可能だ。「1日に40トンは処理できる」と水戸事業部の山崎敏一部長は話す。樹脂やガラス、アルミは破砕後に分別。ガラスは焼却処理され、燃えかす(スラグ)は道路の路盤材となる。アルミは再生利用される。パネル処理事業を担う営業部の浜田悟志部長補は「脱炭素に向け、マテリアルリサイクルの割合を高めたい」と話した。

破砕され分別された太陽光パネルのガラスを示すリーテム水戸事業部の山崎敏一部長=茨城県茨城町で

◆自治体 回収ルート整備へ

 新築住宅の一部に太陽光発電導入を義務化する東京都は、住宅用の使用済み太陽光パネルの回収、リサイクルの体制づくりに乗り出した。2022年秋にパネルの施工や解体、運搬、リサイクルを手掛ける業者らと協議会を設立し、具体的な仕組みを検討中だ。
 国内は大規模太陽光発電所(メガソーラー)など事業用パネルが圧倒的に多いが、都内は住宅用パネルが全体の7割を占める。その処分費用は住宅状況などで違うが、目安は30万円ほど。住宅用は1軒あたりの回収量が少なく、事業用と比べ割高なコストを下げるため、都は効率的な回収の仕組みなどを探っている。本年度は解体業者にリサイクル費用の一部補助も始める。
 福岡県は21年、使用済みパネルの量や保管場所、種類などの情報をインターネット上で一元管理し、業者が回収やリサイクルの手配を円滑に進めやすい体制を整えた。

◆今月のポイント

・使用済み太陽光パネルは2030年代後半に急増
・行政主導で適正処理に向けた仕組みづくりが進む
・環境負荷の軽減へリユース、リサイクル推進を

太陽光パネル 太陽電池を多く並べ、四方をアルミ製の枠で囲っている。材料の重量の6〜7割はガラス。世界の生産量は中国が7割を占め、鉛などの有害物質を含む製品もある。日本の太陽光発電導入量は1992〜2021年末の累計で7800万キロワットで、中国、米国に次ぎ3位。パネル排出量は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の予測では、寿命後も発電できれば使う前提で、36年に17万〜28万トン。


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