今日で東日本大震災の発生から12年を迎える。2011年3月28日号の緊急特集「3・11 企業がすべきこと」の中からいくつかの記事をピックアップし、日経ビジネスが当時の企業の動きをどう捉えたのかを振り返る(記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです)。

目次
あの日、日経ビジネスは震災をどう伝えたか?
エネルギー不足が日本を襲う 電力不足長期化、復興のネックに
広がる原発被災の影響 東電を待つ次なる危機
全国に広がる資金難 期末の中小、資金繰りに強震

東日本大震災は、エネルギーインフラに大きな打撃を与えた。東京電力は原子力発電所が危機的な状況で、不足した電力を賄える見通しは立たない。ガスと石油の復旧は時間の問題とはいえ、経済活動の復興には暗雲が立ち込める。

 「1000万キロワットの電力が不足する。ガスタービンなどの機器をどれだけ出せるのか教えてほしいと、東京電力から声がかかった」。こう明かすのは三菱重工業の大宮英明社長だ。

 深刻な電力不足に陥った東電は今、血眼になって電力や発電用の機器をかき集めている。通常なら3年以上かかる新規発電所の建設も、急ごしらえでやろうとしているようだ。

 3月11日に発生した東日本大震災で、多くの発電所が緊急停止した。特にダメージが大きかったのが東電だ。福島第1原子力発電所は危機的状況で、現在も大事故を防ぐためのギリギリの作業が続く。

 さらに、8カ所の火力発電所も緊急停止。水力発電所までも停止した。東電管内の夏場の最大電力消費量は約6000万キロワット。だが、現在の供給力は約3500万キロワットしかない。

 中部電力や北海道電力など他の電力会社、電力卸事業を営むJパワーなどの事業者、さらには自家発電機を持つ企業から、集められる限りの電力を集めているものの、需要にははるか及ばない。需要と供給のバランスが合わなくなると、電力網は突如として大規模な停電を引き起こす。大規模停電を回避しようと東電は、3月14日から地域と時間を区切って順に停電する「計画停電」に突入した。

 東北電力も、女川原子力発電所や仙台火力発電所が停止中だが、計画停電は回避できている。とはいえ、津波で設備が流されたエリアもある。3月20日時点で、約22万世帯が停電中。「立ち入り禁止が解けた地域から復旧を急いでいる」(東北電力)。

10電力体制のひずみが露見

 問題は、この電力不足をどう解決するかだ。

 今でも、1日3時間の計画停電に対して、産業界からは「工場の操業ができない」と悲鳴が上がっている。だが東電は、「少なくとも4月末までは計画停電が続く。冷房の使用が増える夏場も実施する可能性が高い」と言う。

 今のままでは、夏場の需要に対して、1000万キロワット以上足りない。東電は、工期を短くするため、既存の発電所の敷地内に新規の発電所を造ることを検討している。潰すつもりで停止させていた発電所も再始動させる。それでも到底、需要は満たせないだろう。

 一番簡単な解決法に思えるのは、震災の影響がない西日本や北海道から電力を融通してもらうことだ。実際、約100万キロワットを融通してもらっている。ところが、これ以上は設備面から増やせないという。

 というのも、西日本から東電管内に電力を持ち込むには、周波数の変換が必要になる。西日本の60ヘルツの電力を、静岡県と長野県に3カ所ある周波数変換装置で50ヘルツに変えるわけだが、この装置の容量が合計で100万キロワットしかない。さらに、北海道と本州の間を結ぶ海底ケーブルは、容量が60万キロワットしかない。

電力が融通できない仕組み
東日本、北海道、西日本の電力流通の壁

 かねて周波数変換装置や海底ケーブルの増強は、議論の的となってきた。電力会社ごとに分断された電力網をつなぎ、全国で電力を融通できれば、発電量が変動する太陽電池などを導入しやすくなるためだ。しかし、電力業界はコストを理由に頑なに拒んできた。

 周波数変換装置は1カ所の容量を2倍にするだけでも、「3000億円近い費用と約5年の時間がかかる」(電力業界関係者)とはいうものの、年間の設備投資額が6000億円超の東電なら、不可能な金額ではなかったはずだ。

 東電が設備投資を避けてきた本当の理由は、電力会社の再編問題につながるのを懸念していたからだろう。全国を10の地域に分け、電力10社がそれぞれ独占的な地位を占める現在の事業形態を守るためには、電力網を全国でつなぐわけにはいかなかった。

 ただ、見通しの立たない電力不足に直面した今、周波数変換装置や海底ケーブルの増強に手をつけずには済まないはずだ。18~19ページで見るように、震災によって今後、東電の収益力が低下し、バランスシート(貸借対照表)が相当傷むことは確実視されている。だとすれば今後、電力会社の再編議論も避けて通れないかもしれない。

石油とガスの復旧は時間の問題

 復旧の見通しが立たない電力に対して、石油やガスのダメージは比較的軽微だった。東北地方は都市ガスではなく、LPG(液化石油ガス)の提供エリアが多いが、LPGは備蓄分で対応している。地震以来停止していた都市ガスの仙台市ガス局も、23日から順次再開する見込みで、1~1カ月半でほぼ全面復旧する見通しだ。

 阪神・淡路大震災では10万カ所でガス管の破断があった。この教訓から、破断しにくい配管に更新していたことが奏功した。LNG(液化天然ガス)基地のある新潟と仙台を結ぶパイプラインの損傷が少なかったことも大きい。

 一方の石油は地震以来、全国的な供給不足が続いた。東北と関東にある9カ所の製油所のうち、6カ所が停止したためだ。この影響で、1日当たり約400万バレルあった石油精製量は、一気に約270万バレルになってしまった。実に国内生産量の3分の1が生産不能に陥った計算になる。

 加えて被災地では、製油所と各地の給油所へ運ぶ際の中継地点である油槽所がダメージを受けた。結果、日本海側の油槽所を使うなど、物流ルートを変更せざるを得なかった。「山越えの道で渋滞も多い。簡単に届けられているわけではない」(コスモ石油)。

 さらに、100台以上のタンクローリーが津波で流されたことで台数不足が続いている。給油所の地下タンクや配管に亀裂が入り、使えない場所もある。交通手段をクルマに頼っている被災地では、ガソリン不足で支援物資が届かないなど、深刻な影響をもたらす結果となった。

東京都内のガソリン不足は、買い占めによる“人災”
写真:AP/アフロ

 ただ、ガソリン不足の解決は、時間の問題だ。ガソリンの輸出予定分を国内需要に回したり、各地の製油所で増産や再稼働が始まったりしたため、生産量不足は解消しつつある。そもそも、関東地区以西で起こったガソリン不足は、不安に駆られた人々が買い急いだことによる“人災”だった。

 エネルギー消費量はGDP(国内総生産)に連動すると言われる。ガスや石油復旧のメドが立ったとしても、最大のエネルギー源である電力不足が続いては、日本経済の停滞は避けられない。エネルギーという経済のボトルネックがいつまで続くのか、産業界は今、固唾をのんで推移を見守っている。

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