欧州を代表する自動車部品メーカー、独ボッシュは7月13日、燃料電池モジュールの量産を始めたと発表した。この日、ドイツ南部シュツットガルトにあるフォイエルバッハ工場を訪れると、青色のTシャツをまとった多くの従業員が、真新しいフロアの上で大きな燃料電池モジュールを組み立てていた。

ボッシュはフォイエルバッハ工場で燃料電池モジュールの量産を始めた
ボッシュはフォイエルバッハ工場で燃料電池モジュールの量産を始めた

 量産開始を表明した記者会見に出席したシュテファン・ハルトゥング会長はやや高揚した面持ちで、「ボッシュの中でも最も歴史のあるフォイエルバッハ工場で、水素の未来が始まろうとしている」と語った。早ければ9月末までに米新興自動車メーカーのニコラがボッシュの燃料電池を搭載したトラックを発売する。

 ボッシュは2021年〜26年に水素技術の開発や生産に約25億ユーロ(約3900億円)を投資する途上だ。中国でも燃料電池の需要が高まると見て、重慶市の工場で生産を始める。世界中でトラック向けに加えて工場や住宅向けの定置用の燃料電池も供給し、30年までに水素技術関連で年約50億ユーロの売上高の達成を目指す。

フォイエルバッハ工場で水素事業に関して記者会見したボッシュのハルトゥング会長(7月13日)
フォイエルバッハ工場で水素事業に関して記者会見したボッシュのハルトゥング会長(7月13日)

EUが水素普及を強力に後押し

 水素技術への投資や開発を続けてきた企業としてはトヨタ自動車の名前が真っ先に浮かぶが、ここにきて急速に水素関連の投資や事業を強化しているのがボッシュだ。その背景には、22年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、欧州で水素への期待が急速に高まっているという事情がある。

 侵攻開始後、欧州ではロシアからの天然ガス調達が縮小したのを受けて、ガス価格が急騰した。こうした反省から天然ガスへの依存度を下げるため、二酸化炭素(CO2)排出量の少ない水素を普及させる機運が高まっている。

 欧州連合(EU)の動きは速かった。22年5月には「リパワーEU」計画を策定。27年までに再生可能エネルギーや水素などの普及に2100億ユーロ(約33兆円)という巨費が投じられる可能性を示した。30年までにEU域内で年1000万トンの水素を生産する計画だ。

 EUの執行機関である欧州委員会は23年3月、水素生産を支援する欧州水素銀行の構想を発表した。再生エネなどを使ったグリーン水素と天然ガスなどの化石燃料由来の水素との生産コストの差を埋める狙いがある。

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