スウェーデン語で「ちょうどいい」を意味する「LAGOM(ラーゴム)」という言葉。現代社会のさまざまな問題における最善の落とし所、すなわち“みんなのラーゴム”を探るならば……? スウェーデン在住歴20年以上のコラムニスト、ブロムベリひろみさんが、現地のリアルなリポートを交えてお届け。

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大卒でも家計が厳しい女性と、高卒でも比較的給与の高い男性

ジェンダー平等はお金の話を抜きにしては考えることはできないと、スウェーデンに住んでつくづく思う。女性の政治参加や職場での活躍が当たり前なこの国でも、男女が手にするお金の額に関しては、様々な形の格差がある。お金のあるなしは、人生の決定権に関わる大きな問題だ。

同一職種内での男女同一賃金はかなり達成されていても、男性が多数を占める職種と女性が多数を占める職種間での賃金格差はスウェーデンでも歴然としている。男性が主流なのはエンジニアやトラック運転手などで、そして女性の方は小中学校の教師や保育士、看護士、介護士などだが、これらの女性が多い職業の賃金は低くてよいと、一体誰が決めたのだろう。

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Ann-Sofi Rosenkvist/imagebank.sweden.se

さらにはこれらの、女性が主流の職業の多くは大学での高等教育を必要とする。スウェーデンでは大学の授業料は無料だが、学生は生活費のために学資ローンを借りることが多い。大学でローンを背負って勉強した後に得た職業の賃金が低いのであれば、女性の家計は厳しくなりがちで、高卒でも比較的給与の高い職業が選択可能な男性とは、家計の余裕にかなりの差がでてしまう。この手元に残るお金の余裕のなさは、女性の不動産や株式投資、ファンド運用への関心の低さ、並びに男性と比較して低いそれらの所有率とも結びついていると、ジェンダー平等の研究者たちは指摘する。

スウェーデンにおけるジェンダーギャップの現実

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Sofia Sabel/imagebank.sweden.se
稼げる仕事はどれ? 給与はどう?

スウェーデン中央統計庁のレポートによると、女性の給与額は男性の約90%。給与以外にも育児手当給付の場合や、さらには不動産収入や株式配当など利益収入なども含めた1年間の「所得」の合計額を比較すると、女性の平均は男性平均の80%にまで下がってしまう。女性はフルタイムで働く人が男性に比べて少ないことも、これらの数字に影響を与えている。また、基礎年金は生涯給与額の総計にほぼ比例して払われるが、今の年金受給世代の女性が手にしている年金額は、男性の73%でしかない。

世界経済フォーラムが毎年発表している世界ジェンダーギャップ指数で2022年も5位であるスウェーデンでさえこのように、格差は年々改善されてきているとはいえ(例えばスウェーデンの男女間給与格差は2007年には16.3%あったが2021年には9.9%まで縮まった)、これから先の道のりも長い。同じ2022年のジェンダーギャップ指数の報告書には、ジェンダーギャップが解消されるにはヨーロッパではこれから60年、世界全体では132年かかると書かれている。

「パパ育休」には生涯給与平等の狙いもある

スウェーデンが政策として父親の育児休暇の取得を促進しているのは(例えば育児休暇うち90日は父親だけが取得可能なパパ育児休暇となっている)、なにもお母さんの育児と家事の負担が大変すぎるとか、お父さんも育児を経験するべきでは、というようなことだけが理由ではない。そこにあるものまたお金の問題だ。

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Lieselotte van der Meijs/imagebank.sweden.se
育児休暇中の夫婦の収入は平等か?

スウェーデンで子ども1人あたりにつき480日間ある育児休暇のすべてを母親だけが使うのであれば、母親の生涯給与額は減るし、長期間職場を離れると昇進や昇給の機会を逃すだろう。そして最終的には、給与額を元にした女性の年金額に男性と大きな差がでる。スウェーデンではほとんどの父親は育児休暇をとるが、2021年に取得されたスウェーデン全体での育児休暇総日数の7割は母親が使っており、父親によるものはまだ3割でしかない。これでは、ジェンダー平等には程遠いと、この国では考えるのである。

お金は女性に人生の選択肢を与えるということに話を戻すと、今後さらなる検証が必要な統計ではあるが、スウェーデンでは2020年をピークに年間離婚件数が減り続けている。要因として今考えられているのは、この間バブル気味であった不動産価格の高騰により別居することが難しくなったのではというものや、またコロナ禍で打撃を受けた観光業や小売業で働く人には女性が多かったことから、経済的な自立性を失い、離婚することをあきらめてしまった人も多かったのではとの推測もある。

「お金は女性に人生の選択肢を与える」

最近Danske Bankが行った調査によると、もしも離婚や同居するパートナーと別れることになっても経済的にやっていけると回答したスウェーデン人女性は約半数。33%は別れるだけの経済的余裕がないといい、残りの17%はわからないと回答した。3年前の調査で、余裕がなくて別れることはできないと回答した人は21%だったので、状況はあきらかに悪くなっている。

そんなスウェーデンは、2023年前半、EUの閣僚理事会の議長国になっており、2月初旬にEU25ヵ国からジェンダー平等の専門家を招待して「経済的暴力」に焦点をあてた会議を開催した。ジェンダー間の経済的平等と、男性から女性への暴力への対策は、共にスウェーデンのジェンダー平等国家目標の6つのうちに入っているが、この二つは決して独立した別々の目標ではない。女性が経済的に自立していると、暴力的なパートナーの支配に対抗することができるようになる。女性が経済的にエンパワメントされて、初めてジェンダー平等は達成される。

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Viktor Pettersson/Government Office of Sweden
2023年2月に開催された「経済的暴力」に関する会議

私たち女性は、みんなどれくらい稼ぐかに敏感になるべきだし、私はもっと給与をもらってもいいはずだと、声高に要求することを恐れてはいけないのだと思う。ちょうど100年くらい前、世界中で参政権運動が盛り上がり女性たちが投票権を獲得したように、今、私たちは「仕事に見合った賃金を支払え」と強く訴える時代に突入しているのかもしれない。それは国や企業への訴えでもいいし、妻が育児や介護で休職し、収入が減っているような場合は、夫が妻に給与を払ったり、年金積立の上乗せをするといった形でもいいのかもしれない。

お金が私たちに力を与えてくれることを肯定的に捉え、3月8日の国際女性デーにはお金のことを、ぜひじっくり考えてみてほしい。

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Hiromi Blomberg
スウェーデンのお札は、作家のアストリッド・リンドグレンや映画監督のイングマール・ベリマンなどの肖像画が使われ楽しいのだが、すっかりキャッシュレス化したこの国ではもう、まったくお目にかからない……

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ブロムベリひろみ(HIROMI BLOMBERG)

ブロガー、コラムニスト。日本での広告代理店、エンタメ企業での勤務を経て、2000年よりスウェーデン在住。現在は会社員として働く傍ら、スウェーデンの今を伝えるニュースウォッチ・ブログ「swelog(スウェログ)」を日々更新中。神戸大学卒の関西人。>>ニュースレターはこちら


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