ベスト👍 フィクション
『かげふみ』
朽木祥 作
網中いづる 絵
光村図書出版 刊
2023年5月 発行
定価1760円(税込)
167ページ
対象:小学校高学年から

1945年8月6日のあの朝と現在をつなぐ、一人の少女と「ぼく」の物語。

夏休みに広島に住む祖母の家にやって来た小学5年生の拓海。雨の日に近所の児童館の図書室を訪ねた拓海は、奥の机で一人本を読むで三つ編みの少女に出会います。雨の日にしかやってこないその子は「影を見つける話を探している」というのですが……。現れては消える不思議な少女“すみちゃん”は何者で、なぜ影を探しているのでしょうか。

ご自身が被爆2世で、これまでにも1945年8月6日の記憶をつなぐための作品を書いてこられた朽木祥さんの最新作です。国語教科書に掲載された短編「たずねびと」も併せて収録されています。
主人公は現代の、どこにでもいそうな普通の少年です。彼の日常の中で、80年近く前の戦争を自分事としてとらえる機会は今までなかったことでしょう。広島という町で彼は初めて、自分と変わらない年の子どもたちが犠牲となった戦争について体感することができたのではないかと感じます。それは川の中から見つかる「首のところがぐにゃりとねじれた」小さなびんであったり、潮の満ちてきた川で「早う、上がらんと、足、引っぱられるで!」と言われたりすること――楽しい夏休みの日々が、80年前の戦争の延長線上にあることを折に触れて気づかせる、被爆地・ヒロシマの持つ記憶がもたらしたものなのです。

戦争や原爆の記憶を持つ人たちが少なくなり、語り継ぐことの大切さが強調されています。原爆の惨禍と非人道性を伝えることは必要ですが、最も大切なのは犠牲になった人たち一人一人にかけがえのない人生と未来があったこと、それが原爆によって奪われたことへの想像力を持つことです。世界中どこであってもすみちゃんのような悲しみを生んではいけない――戦争を、核を許さない決意を、物語を通して読者は強く心に刻むことでしょう。(か)

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