新エネルギー供給体制構築なるか…水素、アンモニア活用に注目

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編集委員 倉貫浩一

 政府が決めた脱炭素社会実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)関連の政策は、野心的な目標を掲げている。バイオ、鉄鋼、化学などそれぞれの分野で技術革新を進める工程表を示し、バイオ技術を使ったものづくり、次世代自動車、原子力発電の革新軽水炉の開発など具体的なテーマが多い。本当に実現できるのか不透明さが否めない部分もあるが、期待を持てる技術開発も少なくない。

安定的な電力供給に、引き続き重要な火力発電

 昨今の電気料金の高騰、需給 (ひっ)(ぱく) を考えると、価格上昇と供給不安を抱える液化天然ガス(LNG)、石炭に代わる燃料として水素、アンモニアの活用は重要だ。将来の安定的で安価な電力供給を実現し、エネルギー安全保障を確かなものにするために欠かせないからだ。日本の電力は80%近くが火力発電で賄われている。太陽光、風力などの再生可能エネルギーは20%、原発は4%程度に過ぎない。原発、再生エネを増やし、脱炭素社会を実現する過程で、火力発電は引き続き大切な役割を果たす。

発電用燃料アンモニアの製造・輸送・利用の一貫体制作りも

 こうした中で、重工大手のIHIはアンモニアを発電用の燃料として使うための製造から輸送、商用利用までの一貫体制を作ろうとしている。

アンモニアによる発電の商用化を目指すJERAの碧南火力発電所(愛知県碧南市で)=JERA提供
アンモニアによる発電の商用化を目指すJERAの碧南火力発電所(愛知県碧南市で)=JERA提供
脱炭素に向けてアンモニアのみによる発電に成功したIHIの小型ガスタービン=IHI提供
脱炭素に向けてアンモニアのみによる発電に成功したIHIの小型ガスタービン=IHI提供

 オーストラリアでは丸紅や現地のエネルギー関連企業と組んで、水力資源を活用した再生可能エネルギーを使ったグリーンアンモニアの製造・輸出の事業性調査に乗り出している。アラブ首長国連邦(UAE)では、太陽光発電の電力を活用したグリーンアンモニアの製造・販売の事業性調査を始めている。実際の発電では東京電力と中部電力が出資しているJERAの碧南火力発電所でアンモニアを燃料として利用を始めており、当初の予定を1年前倒しして2023年度から石炭火力発電にアンモニアを20%混ぜて発電する予定だ。また、小型燃焼試験設備の2000キロ・ワット級ガスタービンでアンモニアのみを燃料とする発電を実現し,燃焼時に発生する温室効果ガスを99%以上削減することに成功した。今後、アンモニアだけを燃料とする火力発電所の実用化を見据えている。

1960年代にも燃料転換迫られ克服の歴史

 LNGの調達は不安定さを増している。ロシア極東の石油・天然ガス事業「サハリン2」からのLNG供給が途絶するリスクは消えない。脱ロシアを目指す欧州とのLNGの争奪戦も激化している。だが、日本には発電用燃料の大規模な転換を成功してきた歴史がある。

 発電用燃料としてのLNGは1969年に東京電力が初めて米アラスカから輸入し、翌年から新設の南横浜火力発電所(横浜市)で使用し始めた。横浜市の大気汚染防止の公害規制に対応するため、当初予定していた重油を断念し、「クリーンな燃料」としてLNGに切り替えた。LNGを大量に長距離輸送することが難しかった当時、発電用燃料としてLNGを使用するのは世界的に見ても画期的だった。

政府の「GX実行会議」の初会合で発言する岸田首相(2022年7月、首相官邸で)
政府の「GX実行会議」の初会合で発言する岸田首相(2022年7月、首相官邸で)

 その後、石油危機をきっかけに安定調達できる資源としてLNGの導入拡大が進められた。当時の通産省の審議会は「LNGはクリーンエネルギーで、石油に比べて産出国の地域的な偏りが少ない」とメリットを強調している。そのLNGの調達が危うくなり、よりクリーンなエネルギーが求められている。日本経済の成長は、新しいエネルギーのサプライチェーンを構築できるかどうかにかかっている。

プロフィル
倉貫 浩一( くらぬき・こういち
 1989年入社。さいたま支局を経て、94年から経済部で財務省、総務省、銀行など産業界全般を担当。論説委員を経て、2018年から編集委員。バブル崩壊から平成の日本経済の浮沈を取材してきた経験から、新型コロナウイルス感染拡大後は、企業経営や雇用問題、エネルギー問題などの取材に取り組んでいる。

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3780614 0 編集委員の目 2023/02/03 10:00:00 2024/02/15 10:59:32 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/02/20230201-OYT8I50003-T.jpg?type=thumbnail

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