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政府が決めた脱炭素社会実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)関連の政策は、野心的な目標を掲げている。バイオ、鉄鋼、化学などそれぞれの分野で技術革新を進める工程表を示し、バイオ技術を使ったものづくり、次世代自動車、原子力発電の革新軽水炉の開発など具体的なテーマが多い。本当に実現できるのか不透明さが否めない部分もあるが、期待を持てる技術開発も少なくない。
安定的な電力供給に、引き続き重要な火力発電
昨今の電気料金の高騰、需給
発電用燃料アンモニアの製造・輸送・利用の一貫体制作りも
こうした中で、重工大手のIHIはアンモニアを発電用の燃料として使うための製造から輸送、商用利用までの一貫体制を作ろうとしている。
オーストラリアでは丸紅や現地のエネルギー関連企業と組んで、水力資源を活用した再生可能エネルギーを使ったグリーンアンモニアの製造・輸出の事業性調査に乗り出している。アラブ首長国連邦(UAE)では、太陽光発電の電力を活用したグリーンアンモニアの製造・販売の事業性調査を始めている。実際の発電では東京電力と中部電力が出資しているJERAの碧南火力発電所でアンモニアを燃料として利用を始めており、当初の予定を1年前倒しして2023年度から石炭火力発電にアンモニアを20%混ぜて発電する予定だ。また、小型燃焼試験設備の2000キロ・ワット級ガスタービンでアンモニアのみを燃料とする発電を実現し,燃焼時に発生する温室効果ガスを99%以上削減することに成功した。今後、アンモニアだけを燃料とする火力発電所の実用化を見据えている。
1960年代にも燃料転換迫られ克服の歴史
LNGの調達は不安定さを増している。ロシア極東の石油・天然ガス事業「サハリン2」からのLNG供給が途絶するリスクは消えない。脱ロシアを目指す欧州とのLNGの争奪戦も激化している。だが、日本には発電用燃料の大規模な転換を成功してきた歴史がある。
発電用燃料としてのLNGは1969年に東京電力が初めて米アラスカから輸入し、翌年から新設の南横浜火力発電所(横浜市)で使用し始めた。横浜市の大気汚染防止の公害規制に対応するため、当初予定していた重油を断念し、「クリーンな燃料」としてLNGに切り替えた。LNGを大量に長距離輸送することが難しかった当時、発電用燃料としてLNGを使用するのは世界的に見ても画期的だった。
その後、石油危機をきっかけに安定調達できる資源としてLNGの導入拡大が進められた。当時の通産省の審議会は「LNGはクリーンエネルギーで、石油に比べて産出国の地域的な偏りが少ない」とメリットを強調している。そのLNGの調達が危うくなり、よりクリーンなエネルギーが求められている。日本経済の成長は、新しいエネルギーのサプライチェーンを構築できるかどうかにかかっている。