三菱重工業は、水素の製造から発電までを一貫して検証できる施設「高砂水素パーク」の本格稼働を2023年9月に開始した(図1)。水素ガスタービンの早期商用化に向けて、高砂製作所(兵庫県高砂市)内で整備を進めていたもの。今後、次世代水素製造技術の導入を拡大するとともに、ガスタービン実機で水素混焼・専焼の実証を実施し、製品の信頼性を高める。

図1 「高砂水素パーク」の全景
図1 「高砂水素パーク」の全景
(出所:三菱重工業)
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* 三菱重工業のニュースリリース * 2022年2月14日付、三菱重工業のニュースリリース

 高砂水素パークは、機能別に「製造」「貯蔵」「利用」の3つのエリアに分かれている。このほど製造エリアに、ノルウェーHydrogenPro(ハイドロジェンプロ)製のアルカリ水電解装置を設置し、稼働を始めた(図2)。同装置の水素製造能力は1100Nm3/hで、「世界最大級」(三菱重工)とする。製造した水素は貯蔵エリアへ送り、総容量3万9000Nm3の設備に貯蔵する。

図2 「製造」エリアに設置したHydrogenPro製アルカリ水電解装置のセルスタック
図2 「製造」エリアに設置したHydrogenPro製アルカリ水電解装置のセルスタック
(出所:三菱重工業)
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 水素製造では、三菱重工の独自技術を生かして開発中の固体酸化物電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)やアニオン交換膜(Anion Exchange Membrane:AEM)水電解、次世代ターコイズ水素製造技樹(メタンを水素と固体炭素に熱分解して水素を得る技術)について順次、検証と実証を進めていく。2023年8月に運用を開始した「長崎カーボンニュートラルパーク」(長崎市)で要素技術を開発したうえで、高砂水素パークで水素製造の実証に取り組む計画だ。

* 2023年8月7日付、三菱重工業のニュースリリース

 利用エリアでは、水素燃焼の実機検証に取り組んでいる。エリア内の実証設備複合サイクル発電所(第二T地点)において、45万kWクラスの大型ガスタービン「JAC(J-series Air-Cooled)形」と4万kWクラスの「H-25形」の、2つのガスタービンを利用する。このうちJAC形は、ガスタービン入口温度1650℃で発電効率64%を達成したガスタービン。第二T地点では、2020年7月から長期実証運転を継続しており、2022年9月に実稼働時間が8000時間を突破した。H-25形は、燃焼試験設備での圧縮機駆動用に設置した。

* 2022年9月5日付、三菱重工業のニュースリリース

23年内に30%混焼発電

 2023年内に、第二T地点でJAC形ガスタービンを利用した水素30%(体積比)混焼発電を検証する。地域の電力網に接続した状態で、実際の発電所と同様に運用しながら検証を進めるという。翌2024年には、H-25形ガスタービンで水素専焼の実機実証を計画している。

 三菱重工グループは、2040年のカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)達成を目標に掲げ、「既存インフラの脱炭素化」「水素エコシステムの実現」「CO2エコシステムの実現」に向けた取り組みを推進している。このうち水素エコシステムの実現に向けて、高砂水素パークを活用しながら水素製造・発電技術の開発と実機検証を加速させる。信頼性の高い製品を提供し、電力の安定供給とカーボンニュートラル社会の早期実現に貢献するとしている。