安達 功/日経BP 総合研究所フェロー

投資の流れを追うと3つのパラダイムシフトが浮かび上がる。中国から欧州へ、四輪から二輪へ、そしてハードから制御へという変化だ。

 グローバルな投資の流れを源流とするモビリティー分野のスタートアップに関するリポートをまとめている。お金の流れの変化を見ると、様々なパラダイムシフトの萌芽をつかみ取ることができて興味深い。

 まずは下のグラフを見てほしい。世界のモビリティー投資市場における各国・地域の占有率だ。一目瞭然で、2017年には過半を占めていた中国企業への投資が急減し、欧州企業への投資が急伸、21年には欧州に本社を置く企業群が140億米ドル以上の投資を受けるようになった。

■ 中国が最大だったモビリティー投資、現在は欧州で活発に
<span style="font-size: 1.2em;">■ 中国が最大だったモビリティー投資、現在は欧州で活発に</span>
モビリティー投資市場における各国・地域の占有率の変化を示した。モビリティ―への投資は2017年に最大だった中国の市場占有率が縮小、現在は欧州の投資が拡大している
(出所:Dealroom.co)

 モビリティー関連の投資トレンドは、安全性と環境負荷低減の両立を目指す「持続可能なモビリティー」に向けてすさまじい勢いで変化し、欧州へのシフトが進む。強靭性、移動性、効率性を高いバランスで満たすことが「持続可能な開発目標(SDGs)」を達成する鍵を握るからだ。

新時代の主役は二輪にシフト

 投資を集めるスタートアップで目立つのが、e-バイク(電動自転車)や二輪カーゴサービスなどの領域だ。世界視野で見ると、新時代を支えるモビリティーの主役は四輪のクルマからe-バイクなどの二輪ビークルにシフトしている。これは欧州が本場だ。

 新型コロナウイルス感染拡大で公共交通機関などを避け、自転車利用が増えたのを追い風に市場が急拡大している。欧州各国の政府も排ガス量緩和と市民の健康向上を目指して自転車活用に力を入れており、専用レーンの整備が進む。欧州への投資急伸の背景には、こんな変化もある。日本にいるとなかなか実感できないが、これが世界の趨勢だ。

 電動モビリティーが主流になると燃料の概念が大きく変わる。ガソリン車は定期的に給油所へ行き燃料を補充する必要がある。一方、e-バイクなどを含めた電動車は自宅でも外出先でも燃料(電気)を補充できる。エネルギー効率を高めながら充電するにはどうしたらよいか、どうすれば電力を効率よく使えるか、この解に挑むスタートアップが注目される。

 「充電データマネジメント」と「交通インフラ制御」に対するベンチャーキャピタル投資は22年に前年から倍増し、6億8500万米ドルに達する見込みである。投資の流れから有力なスタートアップ企業や次のテクノロジーを見通すリポート「グローバル モビリティ スタートアップ」(発行:日経BP 総合研究所)は23年1月末の完成を予定している。

安達 功(あだち いさお)
日経コンストラクション記者、日経アーキテクチュア編集委員、日経ホームビルダー編集長、インフラ総合研究所長、日経BP総合研究所長などを経て現職。総合研究所ではSDGs、木材活用、IoT住宅、スマートシティ関連のソリューションを手掛けている