半導体の受託生産で世界最大手の台湾のTSMCは2021年11月、ソニーグループなどと共同で熊本県菊陽町に半導体の新工場を建設すると発表しました。
TSMCが日本に工場を建設するのは今回が初めてです。
発表によりますと、投資額はおよそ1兆円で、このうち日本政府が最大4760億円の工場の整備費用を補助します。
工場は2022年4月に着工して以降、急ピッチで建設が進み、まもなく完成する見通しです。
2024年末からの量産を予定しています。
TSMC側は関連企業からの出向なども含め、およそ1700人を雇用する予定だとしていて、これまでにおよそ800人を雇用し、設備の搬入も始めたことを10月に明らかにしました。
さらに、2つ目の半導体工場の建設を同じ熊本県内で検討しているということです。
関連企業の進出も相次いでいて、熊本県内への経済波及効果について熊本市に本社を置く九州フィナンシャルグループは、2031年までの10年間で6兆8000億円余りに上ると試算していますが、その一方で半導体関連産業で働く専門人材の確保や育成をどう進めていくかといった課題への対応も求められています。
半導体 世界最大手TSMC 熊本の新工場稼働に向けた課題の対応は
半導体の受託生産で世界最大手の台湾のTSMCが熊本県菊陽町に新たな工場を建設すると正式に発表してから11月9日で2年となりました。
工場では2024年末からの量産を予定していて、熊本や九州だけでなく国内全体に大きな経済波及効果が期待されている一方、専門人材の確保や育成をどう進めていくかなどの課題への対応も求められています。
新工場の建設地では地価が上昇
TSMCの進出で台湾から熊本に多くの関係者が移り住む中、工場の建設地である熊本県菊陽町の周辺では宅地の整備が進むとともに、家賃相場も上昇しています。
熊本市の不動産会社ではTSMCの進出が決まって以降、菊陽町の周辺地域でマンションなどの開発を積極的に進めています。
このうち、TSMCの工場から車で10分ほどの場所にある単身者向けのマンションは、ほとんどの部屋が1LDK、家賃は6万5000円です。
11月から入居が始まり、ほとんどの部屋は法人の契約で埋まっているということで、引っ越しで荷物を入れる住民の姿もみられました。
また、菊陽町の隣の大津町の中心部で2024年3月に完成予定のマンションは、家賃が1LDKの部屋で平均およそ7万3000円で、法人の契約で、すでに3分の1が埋まっているということです。
ことし9月に公表された地価調査では菊陽町の住宅地で、上昇率が21.6%と高い伸びとなっています。
不動産会社によりますと、地価の上昇に伴いTSMCの工場周辺の家賃相場はこの2年で2割ほど上昇しているということです。
明和不動産菊陽支店の上原照正 課長代理は「法人1社がマンション1棟をまるごと借りたいと言ってくるなど、大きな変化を感じている。需要は盛んだが、建設できる土地が少ないため、住まいのニーズに応えることが難しくなるのではという課題がある」と話しています。
工場建設に伴い 交通や地下水に課題
TSMCの進出に伴って、熊本都市圏では慢性的な交通渋滞が課題となっています。
熊本県は、国が整備を進める中、九州横断道路の合志インターチェンジと菊陽町を南北に結ぶアクセス道路の建設を計画しているほか、TSMCの新工場の南側に位置し、大津町と菊陽町を東西に結ぶ県道大津植木線を拡幅して片道3車線の6車線とすることも検討しています。
地下水の問題もあります。
TSMCの新工場では工業用水として、一日当たり8500トンの地下水を採取する予定です。
これに加えて周辺のほかの工場でも大量の水を使うと、くみ上げて使う水と地下に浸透していく水のバランスを維持できるか課題となっています。
そのため、米の栽培時期ではない水田に水を張って浸透させ地下水の維持につなげる「かんよう」と呼ばれる取り組みをTSMCの工場の運営会社である「JASM」が財政面で支援するとしています。
「かんよう」はTSMCの進出が決まる前から行われてきた取り組みですが、大津町では11月3日から100万トンを超える量の「かんよう」が行われるなど、地下水保全の取り組みが進められています。
“経済効果 最大限に”「中九州横断道路」早期整備を要望
熊本県と大分県の両知事は、経済の波及効果を高めるためそれぞれの県を結ぶ自動車専用道路を早期に整備するよう国土交通省に要望しました。
熊本県の蒲島知事と大分県の佐藤知事は、13日、国土交通省を訪れ、自動車専用道路「中九州横断道路」の早期の整備を求める要望書を國場副大臣に手渡しました。
それによりますと、この道路は両県の県庁所在地を結ぶため物流の観点から重要で、台湾の半導体大手TSMCが熊本に進出したことによる経済の波及効果を最大限に高めることができるとしています。
また、南海トラフ巨大地震や豪雨などの災害時に、物資の輸送などを通じて、相互に支援することが可能になるともしています。
要望のあと、熊本県の蒲島知事は「とても真剣に要望を聞いていただいた。九州全体の経済効果だけではなく熊本県内の渋滞解消にも効果を発揮すると思う」と述べました。
また、大分県の佐藤知事は「南海トラフ地震の時は熊本から支援が届くことが期待できる。また、大分県にも半導体関連企業がたくさんあるので、この道路が九州の『シリコンアイランド』をつくる起爆剤となる」と述べました。
台湾の半導体戦略 そのねらいは
最新鋭のスマートフォンやEV=電気自動車、それに、ロボットやAI=人工知能など先端産業に欠かせない半導体。
こうした半導体の製造は、ファウンドリーと呼ばれる受託生産メーカーが多くを担っていて、台湾の調査会社によりますと、この分野で世界最大手の台湾のTSMCは世界シェアの50%以上を占めています。
半導体の需要が急速に高まる中、受託生産で高いシェアを誇る台湾は、半導体産業のさらなる強化をはかろうとしています。
台湾当局の最新の半導体戦略では
▽海外メーカーに依存してきた半導体の材料や製造装置の生産強化や
▽半導体産業に従事する人材の育成などを、資金面で支援することなどが盛り込まれています。
ただ、中国は台湾統一に向けて武力行使も辞さない姿勢を示していて、台湾に半導体の生産が集中する現状は地政学的なリスクだという見方もあります。
台湾の頼清徳副総統は、ことし3月、台湾のメディア主催のイベントに出席した際、TSMCを大事に思うなら各国が一致して中国による武力行使を抑止するよう求めました。
こうした発言から、台湾当局が域内の半導体産業を強化する背景には、中国の軍事的な圧力が高まる中、有事が起こらないよう半導体に「盾」の役割を担ってもらう「シリコンシールド」と呼ばれる戦略もあるのではないかと指摘されています。
また、海外では、各国がTSMCの工場を誘致し、半導体を生産しようという計画も相次いでいます。
このうちアメリカでは、TSMCが西部アリゾナ州に工場を建設していて、アメリカ側としては、最先端の半導体を国内で製造するサプライチェーンの構築をはかる考えです。
TSMCは日本でも工場を建設中で、ことし8月にはドイツでの建設も発表するなど、海外で半導体を量産化する動きが目立っています。