商船三井 採用・人事担当者に聞く

運ぶだけでは時代遅れ?変わる海運業界

2022年10月27日
(聞き手:佐藤巴南 本間遥)

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新型コロナの感染拡大による“巣ごもり需要”で世界的なニーズが高まった海運業。でも、これからは荷物を運ぶだけでは生き残っていけない時代にさしかかっているのだといいます。海運業界の「いま」と「これから」について、商船三井の人事担当者に聞きました。

「海運」って何を運んでる?

学生
本間

海運業って、「船で荷物を運ぶお仕事」と理解しているんですけど、主にどんなものを運んでいるんですか?

液化天然ガス(LNG)や石油などの「エネルギー輸送」、工業製品や一般消費財、自動車などといった「製品輸送」、それに鉄鉱石や石炭などの資源や穀物などを運ぶ「ドライバルク輸送」。

商船三井
村田さん

貨物輸送は、大きく分けるとこの3つに分類されています。

ほかに、フェリーやクルーズ船で人を運ぶ「旅客輸送」もあります。

商船三井の採用担当、写真左から井上浩太さん、村田渚さん

1つの船で1度にどれくらいの量の荷物を運べるのですか?

例えば原油の場合だと、日本で1日に消費される量のおよそ半分を一度の航海で運んできます。

商船三井
井上さん

日本の1日あたりの石油の消費量は326万8000バレル(2020年) 1バレルは約159ℓ 出典:BP Statistical Review of World Energy 2021

学生
佐藤

一度に!?

自動車の専用船だと、中が何層ものデッキに分かれている巨大な立体駐車場になっていて、一度に8000台の車を運べる大型船もあります。

そんなに大きいんですね。

船によって違いますが、全長が300mある船もあります。東京タワーを横にしたものが海上に浮いているイメージですね。

1度に大量の物を運ぶことができるのでコストメリットがあります。

世界最大級の原油タンカー。全長339.5m(画像提供:商船三井)

島国の日本で貿易をする場合、荷物を運送するには船で運ぶか、航空機で運ぶかの2つの手段しかありません。

このうち99.5%は海運、つまり船で運んでいます。

えっ、ほとんどの荷物が船で?

弊社ではだいたい、100カ国ぐらいの国と地域の間で約800隻の船を運航しています。

そんなにたくさん!

わたしたちがいつも何気なく使っているものや、その原材料の多くも、海を渡って運ばれているわけですね…。

おっしゃる通りです。

経営の多角化

1つ目のマストなニュースに「経営の多角化」を選んでいただきました。

海運業というのは景気に非常に左右されやすい性質があります。

ですので、今後も安定的に利益を出せるように、いまの収益構造を変えていく必要があると考えています。

なんとなく分かるような気がしますが、もう少し詳しく教えてください。

例えば、2008年のリーマンショックってご存じですか?

はい。一応、知っています。

アメリカの投資銀行、リーマン・ブラザーズの経営破綻がきっかけだったんですが、世界的に株価が暴落し、景気が悪化しました。

それでこの時は人々が、お金を使うのをやめよう、節約しようとなってモノに対する需要が減っていったんです。

すると当然、船でモノを運ぶ需要が減ってしまい、海運業界にも大きな打撃を与えました。

逆にコロナ禍では、いわゆる“巣ごもり需要”で家具やおもちゃ、家電などの荷物の量が急激に増え、荷物を運ぶコンテナが足りなくなるなどして、コンテナ船の運賃が高騰しました。

これは予想だにしていなかったことなんですけど、その結果弊社は2021年度は過去最高益を記録しました。

そうだったんですね!

その時その時の世界情勢によって、景気が良くなることもあれば、悪くなることもあります。

ですが、景気が悪くて海運の事業が落ち込んだ時でも、ほかに儲かる事業があれば会社全体の業績はそこまで落ち込まないで済みます。

非海運事業にも参入して多角的に事業を展開することで、経営を安定させていくことを目指しています。

具体的にどういった事業に力を入れているんですか?

1つは洋上風力発電事業ですね。

台湾沖の洋上風力発電所(画像提供:商船三井)

洋上風力?

風力発電の風車を海の上に立てて発電する洋上風力の発電事業や、設備の据え付け、メンテナンスなどの事業に取り組んでいます。

陸上の風力発電と比べて海は広いので、1つ1つを大きくかつ大量に作ることができます。

まだコストや技術面で課題もありますが、脱炭素社会の実現に向けた新しい市場として注目されているんです。

そうなんですね!

弊社では化石燃料も運んでいるので、これが再生可能エネルギーに置き変わると、そうしたエネルギー輸送はなくなってしまうかもしれません。

そうならば、再生可能エネルギーをつくる仕事にも関わっていかなきゃいけないと考えたわけです。

こうした危機感を持って事業に参画をしています。

ほかにも、多角化に向けて取り組んでいる事業はあるんですか?

エネルギー輸送で培ったノウハウを活用して、船を輸送のためではなく特定の場所に浮かべて活用する事業も行っています。

例えば「FSRU」という船は、陸上のLNG受入基地に代わって海の上でLNGを貯蔵し、顧客ニーズに応じて再ガス化を行い、高圧ガスとして送り出す機能を持っています。

FSRU(画像提供:商船三井)

陸上に基地をつくるよりも低コスト・短期間で建造することができるので、新興国などにおいても導入しやすいのが特徴です。

このほか、不動産事業も展開していますね。

海運会社なのに不動産?

それこそ海運と違って、安定的に事業を継続できる分野だと考えています。

これまで培ってきた海外とのネットワークを生かしながら、不動産事業を営むグループ会社と一緒に東南アジアやインドを中心に力をいれていこうとしています。

グループ会社がベトナムに所有するオフィスビル(画像提供:ダイビル)

へ~。陸でも事業を展開してるんですね。

弊社では社員が新規事業を提案できる制度があって、マングローブの再生・保全事業や、ベンチャー企業への投資事業などもやっていますね。

従来の海運業と、非海運業も含めた幅広い社会インフラ事業をグローバルに展開していくことが、弊社の安定的成長のみならず、社会の長期的な繁栄にも貢献できると考えています。

船の進化

続いてのニュースは船の進化です。これは、どういうことなんでしょうか?

今まで人だけがやってきたことをICTでサポートする技術開発が進んでいます。

例えば船を動かす際には、航海士が航路に危険物や障害物がないかを目視でチェックをしていますが、AR技術を用いて、カメラのリアルタイム映像と航海情報を重ねて表示させるシステムを開発するなど、安全性の向上に取り組んでいます。

航海情報表示システムの画面(画像提供:商船三井)

船を運航するのって、いろんな条件に左右されるんですよね。

もちろん風も吹けば、潮の流れもありますし、気象や海の状況ってすごく変わりやすいんです。

とはいえ、自然現象なんでどうしようもないんじゃ…。

こうした刻一刻と変化するなかでも、より安全かつ効率的な運航を実現できるよう、他社とともにデータの蓄積やAIの活用などもしています。

もちろん、いまでもいろいろな情報を活用していますが、いま以上にさまざまな船の運航情報をビックデータとして活用し、AIが最適な航路を導き出してアドバイスしてくれるようなイメージです。

データの蓄積って海運業にとってすごく大切なんですね。

ほかにも船員の労務負担軽減、安全性の向上を目的に、自律運航技術の開発なんかも進められています。

事故が起きる原因ってヒューマンエラーが多いんですが、やはり疲れていて集中力が切れている状態だと事故って起きやすいんです。

システムを使って業務の効率化を図り船員の負担を軽減させていくことで、ヒューマンエラーを減らし、安全運航に繋げていきたいと考えています。

脱炭素

3つ目のニュースは「脱炭素」ですね。

海運業界は温室効果ガスを大量に排出している業界の1つだということが前提にあります。

船を動かすため、ということ?

船を動かす燃料って、石油のなかで一番どろどろした「重油」と呼ばれているものです。

この重油というのは、温室効果ガスを多く排出し、環境への負荷が非常に大きいんです。

大体いま、年間約1000万トンの温室効果ガスを弊社だけで出しています。

1社だけで!?

海運業界は温室効果ガスを多く排出している業界の1つです。

弊社としても2050年までに排出量を実質ゼロにする目標を掲げていて、脱炭素の方向に大きくかじを切ろうとしています。

どうやって達成していくんですか?

1つはLNGの活用です。今重油で動いている船を、現時点で実用可能で比較的温室効果ガスの排出量が少ないLNGで動かしていこうと取り組んでいます。

ただLNG自体もまったく温室効果ガスを出さないわけではないので、最終的には水素やアンモニアなど、温室効果ガスを排出しない燃料に変えていくのが目標です。

ほかにも「ウインドチャレンジャープロジェクト」といって、船に帆を立てて風の力を船の推進力に利用し、燃料消費量の削減と環境負荷低減を実現する取り組みを進めています。

風の強さや向きをセンサーで感知して帆を自動制御する(画像提供:商船三井)

先端に付いているものが帆ですか?

はい。繊維強化プラスチックと言って、お風呂の浴槽に使うような硬くて頑丈だけど軽い素材を使っています。

これでどれぐらいの温室効果ガスを削れるんですか。

航路によっても違いますが、帆を1本立てることによって約5~8%の温室効果ガスの削減効果を見込んでいます。

2022年の10月にこの帆を立てた船が初めて竣工(しゅんこう)しました。

こうした取り組みを並行して進めながら温室効果ガスを減らしていこうと思っています。

“自分らしさ”を大切に

最後に、就活生に対してのメッセージを聞かせて下さい。

こういう人でなければいけないというものはありません。

自分らしさというか、自分がやってきたことを突き詰めていただくのが一番いいのかなと思います。

グローバルな志向が必要かなと思っていましたが。

それも人それぞれでいいのかなと思います。

これからいろいろと新しい事業を生み出していくためには、組織が多様性に富んでいて、会社の中にいろいろな考えの人たちがいるっていうことが大事なんですね。

ただ他の人と一緒に仕事をせざるを得ないので、チームワークを進めていく上での協調性やコミュニケーション能力はやはり必要ですね。

あとは、新しいことに興味を持てること。そういう気持ちを常に持っていることが大事かなと思います。

食わず嫌いではなく、色々やってみようと挑戦する姿勢のことですね。

ありがとうございました。

撮影:小野口愛梨 編集:松原圭佑

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