2023年1月20日
新型コロナ 中国

春節の中国「ゼロコロナ」終了で混乱は? 死者発表は1500倍に

「12月8日から1月12日までの死者数は5万9938人」

中国の保健当局が1月14日の記者会見で突如、明らかにした新型コロナウイルスによる死者数です。それまでの公式発表だった38人から1500倍に膨れ上がりました。

「ゼロコロナ」から「ウィズコロナ」への大転換。死者数の急増。
中国の人々は習近平指導部の政策に振り回され続けています。

(中国総局記者 松田智樹)

衝撃の新型コロナ死者1500倍

突然新たな死者数が明らかになったのは1月14日の夕方行われたおよそ1時間の記者会見。

新型コロナに関する様々な情報が発表される中国当局の会見の終盤でした。

2023年1月14日 中国当局の記者会見

国営メディアの記者の質問に答える形で、中国の保健当局、国家衛生健康委員会の焦雅輝局長が明らかにしたのです。

記者:「現時点での全国の新型コロナウイルスの死者数はどうなっているのでしょうか」

焦局長:「12月8日から1月12日までに新型コロナに感染して医療機関で死亡した人は5万9938人だった」

それまで同じ期間の死者数として公式に発表されていたのはわずか38人。

その死者数がいきなり1577倍に膨れ上がり国内外のメディアが速報で伝えました。

なぜ死者数が急増?

焦局長は会見の中で「感染した人が基礎疾患との合併症で死亡した場合も新型コロナによる死者と判定した」と説明しました。

焦局長はこれまで新型コロナによる死者について「新型コロナに感染しても基礎疾患などが原因で死亡した場合は新型コロナによる死者として数えない」と繰り返し強調していました。

2022年12月29日 記者会見する焦雅輝 局長

しかし、WHO=世界保健機関が「中国の死者数は定義の問題で過小に報告されている」と指摘するなど、中国政府の対応に批判が高まる中、説明を一転させたのです。

会見では、呼吸不全で死亡した人が5503人、合併症で死亡した人が5万4435人、死亡した人の9割が65歳以上の高齢者だったと詳細も明らかにしました。

6万人は“医療機関”で死亡した人数?

焦局長がおよそ6万人の死者数を発表した際、「医療機関で死亡した人」とわざわざ限定して発言したことに中国ではSNSを中心に反発が広がっています。

SNSに投稿されたコメント

インターネット上では中国各地の火葬場で車の長い列が確認されるなど、多くの人が亡くなったという情報が連日伝えられてきました。

新型コロナで亡くなった人は本当はいったいどれだけいるのか。

感染が急拡大し公式発表と実態が大きくかけ離れる中、なんとかつじつまを合わせようとする当局に対して、多くの国民は怒りを通り越してあきれかえっているというのが実情ではないかと感じます。

記事や映像も次々に削除?

「ゼロコロナ」政策終了後の混乱が続く中、中国当局は新型コロナに関する情報に神経をとがらせています。

1月8日の未明、内陸部の江西省南昌で起きたトレーラーによる事故。

事故を伝える中国中央テレビのホームページ

国営の中国中央テレビが19人が死亡、20人がけがをしたと事実を淡々と伝える一方、一部のメディアは「事故に遭った人たちは火葬場の混雑を避けるために夜明け前に移動を始めていた」と伝えました。

この事故現場とされる映像がSNSに投稿されましたが、その後、相次いで削除されたのです。

中国メディア「経済観察網」のサイトに掲載された記事(その後削除)

1月13日に「国内の感染者が累計で9億人に達した」という推計を伝えた中国メディア「経済観察網」の記事もすぐに削除されました。

中国では感染者を把握するためのPCR検査は行われなくなり、1月8日のデータを最後に毎日行われていた感染状況の発表もなくなったため、詳しい実態はわかりません。

そこで北京大学の研究チームが「発熱」や「せき」といった新型コロナの症状に関するインターネット上での検索数などから感染者数を推計。

推計でも9億人が感染したというニュースは海外メディアも大きく取り上げましたが、記事そのものはすでに見られなくなっています。

習近平指導部も説明を修正?

注目されたのが1月8日に国営の新華社通信が「中国の感染症との闘いが新たな段階に入ったーわが国の時と勢いに応じた感染対策の適正化の記録」と題して配信した解説記事です。

習近平国家主席

去年11月10日、習近平国家主席も出席して行われた最高指導部の会議について、新華社通信は当時配信した記事で「『ゼロコロナ』政策の方針を揺るぎなく貫徹すべきだ」と政策の継続を強調していました。

しかし、解説記事ではこの会議について「感染力の強さは明らかで『ゼロコロナ』政策を維持する難しさが増し、社会的なコストが増大している」という認識が示され、ゼロコロナ政策の終了に向けた転換点になった、としているのです。

抗議活動にも“異例”の配慮?

11月下旬に北京や上海など中国各地で一斉に起きた「ゼロコロナ」政策に反発する抗議活動についても“解説”されています。

2022年11月28日 北京市内で白紙を掲げ抗議の意を示す人々

厳しい言論統制が敷かれる中国では異例の大規模な抗議活動を念頭に「いくらかの民衆が一部の地域の行き過ぎた感染対策に反応したことは高い関心を集めた」と言及。

さらに「人口14億あまりの中国では人々はそれぞれ異なる要求を抱え、物事に対する見方も異なる。広範な共通認識と科学的な政策決定は感染対策を調整するカギとなる」として、抗議活動のきっかけとなった人々の不満に理解を示すような表現もみられたのです。

中国では1月21日から旧正月の春節にあわせた大型連休に入り春節前後の40日間にのべ21億人近くともいわれる人々の大移動が始まっています。中国政府は全国的に感染のピークが過ぎたとしていますが、感染症の専門家からは「各地でまだピークが2~3か月続く見込みで重症者数のピークが続く期間はそれよりも長い」と危機感も示されています。

「ウィズコロナ」にかじを切り、いわばパンドラの箱を開けた習近平指導部。

「ゼロコロナ」政策の終了を国民の声も考慮して進めた“政策の大転換”という位置付けにすることで、批判の高まりを避けたい、そんな思惑があるのかもしれません。

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