完了しました
ロシアが占拠するウクライナ南部ヘルソン州にあるカホフカ水力発電所のダム決壊で、農業や漁業への被害が深刻化している。ウクライナ農業政策・食料省は7日、数万ヘクタールの農地が浸水するとの推計値を発表した。かんがいシステムの被害によって農地の「砂漠化」も懸念されている。
ウクライナは「欧州の穀倉地帯」とも呼ばれる農業大国だ。ドニプロ川流域のヘルソン州、南部ザポリージャ州、東部ドニプロペトロウシク州の3州ではロシアによる侵略前の2021年、穀物など400万トン(15億ドル=2090億円相当)を収穫していた。ヘルソン州はスイカやトマトの産地としても知られる。
しかし、ダム決壊による洪水で、ドニプロ川西岸だけで約1万ヘクタールの農地が浸水し、ロシアが占拠する東岸では、その数倍の被害が出ているとみられる。
ダムの決壊でかんがいシステムの水源も失われた。ウクライナ政府の推計では、ヘルソン州は94%、ザポリージャ州は74%、ドニプロペトロウシク州も30%の水源が失われる。ロイター通信は「少なくとも50万ヘクタールの農地がかんがいを失う」と報じた。
ウクライナ農業政策・食料省は「南ウクライナの農地が来年、砂漠となりかねない」と危機感を募らせる。同省の第1副大臣は8日、「数百万トンの作物が失われる可能性がある」と述べ、「国際的な食料安全保障の脅威になる」と訴えた。
また、ウクライナを支援するNGOは洪水の影響で少なくとも150トンの石油が流出し、さらに300トン以上が流出するおそれがあると指摘する。ヘルソン州は元々、弾丸や燃料から出た有害物質や地雷の除去に長期間かかると指摘されていたが、ダム決壊でさらに復旧が遅れるおそれがある。
漁業への影響も懸念されている。ウクライナ政府によると、すでに多くの魚類が死んでおり、高級食材キャビアの生産にも被害が及ぶとみられる。淡水が大量に流入することで、黒海沿岸の生物資源が死滅することも起こりうるという。
農業政策・食料省は、損失は、生物資源全体では105億フリブニャ(395億円)に上ると見積もる。同省は「魚類の量的・質的な回復には長い時間がかかるだろう」と指摘している。