日本では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて動きが活発化している。企業もCO2の排出量削減や、化石燃料に依存しないエネルギーの利用体制への変化など、さまざまな対応が求められている。こうした取り組みには大きなコストがかかる可能性もあるが、企業はどのように対応するべきなのか? 神戸大学大学院経営学研究科教授の國部克彦氏​に話を伺った。

國部克彦氏

CO2が削減できなかった際のリスク

気候変動についてはこれまでもさまざまな予測がされており、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)は「2030年ごろには、産業革命前に比べて1.5度以上上昇する可能性が非常に高い」という報告書を出し、脱炭素への対策強化を求めてきています。

ただし、本当に気候変動と人類のCO2の排出量に起因していて、人類がCO2の削減に失敗したら温暖化が抑制できなくなり、人類の存続にかかわる重大問題なのであれば、CO2を削減する取り組みと同時に、削減できなかった場合の温暖化した地球に適応するための取り組みも同時に考えるべきですが、後者についてはほとんど議論されていません。

しかも奇妙なのは、それだけ深刻な問題であると言っているにもかかわらず、カーボンニュートラルの期限が2050年と、今から30年近く先であることです。大きな危機が迫っているというのに、このように悠長に構えていていいのでしょうか? なぜ、すぐに抜本的な対策(たとえば化石燃料の使用停止など)を取らないのでしょうか。

このように考えるならば、世界は気候変動問題に真剣に取り組んでいるのかという疑問がわきます。これは、最も積極的に取り組んでいるのは欧州でも同じです。そう考えると、脱炭素を推し進める本当の目的は気候変動の解消ではなく、別のところにあるのではないかと思われます。

欧州はエネルギーの覇権を握りたい

現在エネルギー資源の主流となっているのは石油や石炭などの化石燃料ですが、化石燃料はアメリカやロシア、中東などには豊富にあるものの、欧州はこれらのエネルギー資源が十分ではありません。かつては欧州はアフリカやアジア、中東に植民地を持つということをやっていましたが、第二次世界大戦後に植民地が独立したため、化石燃料の権益の多くを失うことになりました。

そこで欧州は、化石燃料に対する支配権を失ったので、再生可能エネルギーに転換することにより、エネルギー戦略に打ち勝とうとしている面があるのではないでしょうか。つまり、「気候変動防止」は産業構造転換を目指すための「錦の御旗」なのです。産業構造の転換には時間が必要ですから、直ちに抜本的な対策を取らずに、時間をかけて社会システムを変えようとしているわけです。

ただ、化石燃料に頼らずに再生可能エネルギーを取り入れていくことは、悪いことではありません。特に日本は化石燃料などのエネルギー資源がない国ですから、再生可能エネルギー技術を高め、化石燃料に依存しない体制作りをすることは、国にとっても企業にとっても非常に有益です。

化石燃料に依存しない=CO2の排出量削減ではない

ここで重要なことは、「化石燃料に依存しない体制作り」=「CO2の排出量削減」では決してないということです。ここをイコールで結びつけて考えると、様々な弊害が生じます。なぜなら、CO2の排出量を削減するには、最終的には生産量を減らさざるを得ないからです。

エネルギー転換のために莫大な社会的コストをかけたにも関わらず、CO2の排出量は減ったけれども国力も減った、ということになっては本末転倒ですし、国にとっても、企業にとっても非常に大きなリスクです。

企業がカーボンニュートラルに取り組むときには、このような欧州の思惑を認識しておくことがとても重要だと私は考えています。環境危機を煽る主張に惑わされずに、本質を理解する必要があるといえるでしょう。