2023年2月に開催した「日経SDGsフェス 大阪関西」に国内外の論客が集まった。世界情勢を踏まえたエネルギー安全保障を巡って議論が展開された。

 2023年2月15日から3日間にわたり「日経SDGsフェス 大阪関西」が開催された。会場ではウクライナ紛争勃発から一変したエネルギーと経済の情勢に言及する登壇者が続いた。

「日経SDGsフェス 大阪関西」に登壇した日本エネルギー経済研究所の小山堅・首席研究員<span class="fontSizeS">(写真:日経SDGs フェス 大阪関西)</span>
「日経SDGsフェス 大阪関西」に登壇した日本エネルギー経済研究所の小山堅・首席研究員(写真:日経SDGs フェス 大阪関西)

 22年、ロシア産原油・天然ガスの供給途絶によりエネルギー価格が急騰し、世界でエネルギー安全保障への危機感が増した。1日目に登壇した日本エネルギー経済研究所の小山堅・首席研究員は、経済性の高いロシア産燃料を戦略的に調達してきた欧州を中心に「ロシア依存度を引き下げ、同時に今回のような緊急の受給ひっ迫への対応力を高める動きが強まった」と振り返る。その結果、アジアだけでなくドイツなど欧州でも安価な石炭火力発電に回帰し、脱炭素に対する「逆行」を招いた。

 今後、中長期では価格変動が大きい化石燃料の消費を抑え、再生可能エネルギー導入や省エネ推進、原子力発電の利用拡大が進むとみられる。一方で「エネルギーの安全保障と価格安定には、需要国と供給国による協調が重要。現在の世界的な分断は、安全保障に大きな影響を及ぼす」と小山首席研究員は指摘する。

G7で協調と安定に導けるか

 それまでの米中対立が、米欧など西側諸国対ロシア・中国という構図に変わり、世界の分断はさらに深まっている。経済的で安定的なエネルギー供給源が限られ、燃料争奪戦が激しさを増すなか、日本は23年、主要7カ国(G7)の首脳会議(5月)や気候・エネルギー・環境大臣会合(4月)の議長国を務める。小山首席研究員は「欧州などで自国の安全保障を追求する姿勢が見られる。日本は議長として世界の安定と繁栄のためにリーダーシップを発揮すべき」と話す。エネルギー需要増が著しいアジアの新興国や、燃料の資源国も巻き込んだ対話が期待される。

日本金融経済研究所の馬淵磨理子・経済アナリスト<span class="fontSizeS">(写真:日経SDGs フェス 大阪関西)</span>
日本金融経済研究所の馬淵磨理子・経済アナリスト(写真:日経SDGs フェス 大阪関西)

 日本が国際協調で中心的な役割を期待される一方、国内では「ロシア情勢を踏まえた、次のエネルギー基本計画の議論が始まる」(小山首席研究員)。23年2月10日には国の「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」が閣議決定し、再エネの利用拡大や原発活用などのエネルギー利用や、産業の脱炭素化を官民で促進する。「GX経済移行債」の発行も盛り込まれた。同日登壇した日本金融経済研究所の馬渕磨理子・経済アナリストは「グリーンエネルギー利用や脱炭素の実現を通じて、自社が未来にどのようなポジションを取り、どういった存在を目指すのかを効果的に発信することでESGマネーの調達に成功できる」と話した。

 企業は世界の激変の先を読みながら未来像を描き、伝える手腕が要る。国はそうした企業に、エネルギー安全保障と経済成長、脱炭素の3軸を満たす道筋を示さなければならない。