都営地下鉄の駅業務で偽装請負の恐れ 都職員の駅長が委託先社員に「指示」 都の言い分は「情報伝達」

2023年5月29日 06時00分
 東京都営地下鉄4路線106駅のうち59駅の駅業務が都から外部委託されており、労働者派遣法が禁じる「偽装請負」を招かないか、という懸念が持たれている。法律上、業務委託元は、委託先の労働者に直接指示はできないが、これらの駅では都職員の駅長のもとで委託先の社員である駅員が働いている。都側は「駅長が行うのは指示でなく情報伝達」と説明するが、現場の駅員からは「実態とそぐわない」という声が上がる。(三宅千智)

 偽装請負 実質的には労働者派遣なのに、委託契約に見せかける違法行為。通常の委託では、委託された会社の労働者がその会社の指揮命令下で働くが、偽装請負では委託元の指示に従う。事故や問題が起きた際、労働者に対する責任の所在があいまいになるため、労働者派遣法や職業安定法が禁じている。

◆「駅長から掃除してと言われた」委託先社員が証言

 「車いすの乗客への対応など、駅長からの指示なしでの業務は現実的ではない」。都から駅業務を受託している一般財団法人「東京都営交通協力会」(江東区)の契約社員で駅員の男性が取材に証言した。「駅長からホームが汚物で汚れたので掃除をして、と言われたこともあります」
 都は2003年度から、都営地下鉄の駅の窓口対応や乗客案内、ホーム監視などの業務について協力会への委託を始めた。列車の折り返しが発生する終点駅や利用客の多い駅などは都職員による直営を守るが、それ以外で委託を増やし、当初の11駅は20年で5倍以上となった。

◆都「指示にあたるかどうかは受け取り方の問題」

東京都営交通協力会への委託駅の一つである都営大江戸線「西新宿五丁目駅」=新宿区で

 都営地下鉄駅の業務委託を巡っては、東京労働局が3月、偽装請負とみなされる恐れがあるとして都を指導した。駅長が緊急時以外に駅員に指示する場合は、駅長が委託先の責任者に指示内容を連絡し、その責任者から駅員に伝える必要がある。東京労働局は、都が協力会との間で交わした、緊急時以外も駅長が駅員に直接指示できると読み取れる契約書の内容を問題視した。
 その後、都は契約書の文言を変更したが、駅長が都職員であるのは変わっていない。都交通局は「駅長から言われたことが、指示にあたるかどうかは受け取り方の問題」と説明する。偽装請負が発生する余地は解消されていない。
 労働法に詳しい沼田雅之・法政大教授は「駅長が連絡事項の伝達のつもりでも、言われた側は指示と受け取ることもある」と指摘。「委託元と委託先の人間が職場に混在している状況が、偽装請負の疑いを招く。駅長の都職員を協力会に出向させるのも解決策の一つではないか」と提案する。

◆委託先駅員「年収350万円、昇給なし」 都職員は?

 都営地下鉄の駅業務の外部委託を進める理由について、都交通局の担当者は「職員を増やせない中で、サービスを維持し、効率的な駅運営を目指すため」と話す。
 都の職員削減が本格化したのは、石原慎太郎知事時代の2000年度以降だ。1999年度に約6万3000人だった都庁の知事部局と公営企業局(交通局、水道局、下水道局)の職員数は、23年度に約3万3000人にほぼ半減。交通局は99年度の約8300人が、23年度は約6700人に減った。このため、都営地下鉄業務に従事する都職員の21年度の人件費は約359億円となり、02年度の約383億円から24億円削減された。
 こうしたコスト削減策の背景には、直営と委託駅で働くそれぞれの駅員の待遇差がある。都の示すモデルケースによると、直営駅の都職員の年収は30歳で約440万円、40歳で約550万円。一方で、委託駅で働く契約社員の男性によると、年収は約350万円で昇給も退職金もないという。直営と委託の駅員は制服も業務内容も同じだが、待遇には歴然とした差がある。男性は「納得がいかないと感じる時もある」と話した。

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