山が崩れ落ちている… 専門家に聞いた、気候変動の影響とリスクの高い山

フルヒトホルン

フルヒトホルンの一部が崩落した。

Sean Gallup / Staff / Getty Images

  • スイスとオーストリアの国境にあるフルヒトホルンの最高峰が6月に崩落した。
  • 専門家は、ヨーロッパのアルプス山脈やニュージーランドの南アルプス山脈も崩落の危険があると指摘している。
  • 山の崩落による被害や危険は先住民族のコミュニティーに特に影響を及ぼす。

6月11日、スイスとオーストリアの国境にあるフルヒトホルンの主峰が何の前触れもなく崩落した。

約350万立方フィート(約9万9000立方メートル)の土砂が崩れ落ち、ふもとの谷をオリンピックのプール40杯分相当の岩、泥、土で埋めたとLiveScienceは報じている。負傷者はいなかったが、山頂にあった十字架が破壊されたという。

フルヒトホルンには3つのピークがあって、最高峰は南側のピークだった。南側のピークが崩落したことで、標高1万1145フィート(約3397メートル)の真ん中のピークがシルヴレッタ・アルプスで2番目に高い山頂になった。

LiveScienceによると、フルヒトホルンは2023年に入ってから60フィート(約18メートル)低くなった。

永久凍土層の問題

主峰はなぜ崩落したのだろうか? 極北の多くの山がそうであるように、フルヒトホルンにも永久凍土 —— 山の地表の下の凍結した状態が持続した土壌または地盤 —— が多くあった。

「永久凍土が重要なのは、地中の凍った水が地表をつなぎとめ、動かないようにしているからだ。その氷が溶けると、液体の水が流れ出す。地表は安定性を失い、動くようになる。しばしば急激にだ」と南アフリカにあるウィットウォーターズランド大学の地球科学者ジャスパー・ナイト(Jasper Knight)氏は話している。

フルヒトホルンの土砂崩れのように、山の大きな塊が急速に移動することを「マスムーブメント」と呼ぶ。

「地球温暖化が永久凍土の融解を引き起こし、それがこうしたマスムーブメントの引き金になっている」とナイト氏は指摘している。

世界各地で、永久凍土が融解した山々では地滑りの規模が拡大し、頻度も増していると気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は報告している。アルプス山脈の落石に関する研究は、夏の熱波が永久凍土の融解の引き金にしばしばなっていることを示唆している。

フルヒトホルン

崩落したフルヒトホルン。

Sean Gallup / Staff / Getty Images

ただ、気候変動による気温の上昇が影響を及ぼすのは、永久凍土だけではない。氷や雪の表層も溶けて洪水や土砂崩れを引き起こす恐れがある。IPCCによると、氷河の融解も山々が何年にもわたってその側面を支えていた氷を失うことになるため、マスムーブメントを引き起こす可能性がある。

危険な山は?

科学者たちにとって、特定の山が次にいつ地滑り落石を起こすか予測するのは難しい。しかし、世界的なパターンを追跡し、どの山脈がよりリスクが高いか判断することはできる。

氷河が急速に失われている険しい山々では、マスムーブメントが最も起きやすいとナイト氏は言う。こうした条件を満たす山は、ヨーロッパのアルプスやニュージーランドのサザンアルプスに多いと同氏は語った。

アオラキ/マウント・クック国立公園

ニュージーランドのアオラキ/マウント・クック国立公園。

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マスムーブメントが起きると、他もそれに続く可能性が高い。

「山が小さくなるにつれ、周囲の斜面への圧力が減少し、これがしばしばマスムーブメントの引き金になる」とナイト氏は話している。

同氏は、落石や地滑りによって山のふもとが強化され、安定することもあると付け加えた。ただ、山の斜面が環境変化の影響を受けやすくなることの方が多い。フルヒトホルンのように、過去にマスムーブメントがあった山では再びマスムーブメントが起こる可能性が高い。

人的要素

IPCCによると、世界全体で6億7000万人以上が高山帯に住んでいる。そして、気候変動は土砂崩れ、地滑り、落石などによってこうした人々の命を危険にさらしている。

また、マスムーブメントは道路の寸断や農地へのダメージ、周辺水域の水銀汚染の危険性を高める。こうした危険性は、先住民族のコミュニティーに特に影響を及ぼす

先住民

ペルーのシナカラ渓谷を通って聖地を目指す巡礼者たち。

CHRISTIAN SIERRA / Contributor / Getty Images

人間の行動が山を気候変動の影響を受けやすくすることもあれば、受けにくくすることもある。Insiderでは、先住民の権利を擁護する一方でアンデス山脈の生物多様性を保護している団体「Asociación ANDES」のアレハンドロ・アルグメド(Alejandro Argumedo)氏とタミー・ステナー氏(Tammy Stenner)に話を聞いた。

アルグメド氏とステナー氏によると、アンデスの先住民は山腹の過酷な気象条件を予測し、対処するための伝統的かつ綿密な知識体系を持っているという。

彼らの戦略の1つが「土壌浸食や地滑りを防ぐ」段々畑だとアルグメド氏は話している。

この戦略が機能するには、山の頂上に自然の牧草地と余分な水を蓄えておくスポンジの役割を果たす在来種の樹木が必要だと同氏は付け加えた。中国の雲南省にある宝山石頭城では1300年もの間、同様の水管理システムを実践してきた。

段々畑

ペルーのアンデス山脈、標高1万1500フィート(約3500メートル)にある古代インカの段々畑。

Frédéric Soltan / Contributor / Getty Images

しかし、こうした技術は使われて初めて効果を発揮する。アルグメド氏とステナー氏によると、ペルー政府は伝統的な生態系管理戦略を認めず、投資することも拒否しているという。

「土砂崩れが起きるのは、山の生態系が悪化して段々畑が放棄されているからだ」とアルグメド氏は指摘している。その上で、採掘活動や道路建設が山の環境をさらに不安定にしていると同氏は付け加えた。

今後の見通し

気候変動が加速するにつれ、山の環境も急速に変化する。ナイト氏は、今後10年でマスムーブメントを目にすることが増えるだろうと予測している。

ただ、状況は絶望的ではない。気候変動を遅らせ、山の荒廃を防ぐためにわたしたちが今すぐ取り組めば、最悪の事態を食い止め、山々とその近くで暮らす共同体を守ることができると科学者たちは信じている。

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