欧州委の研究機関、ヒートポンプ普及はエネルギー消費・排出削減に貢献と分析

(EU)

ブリュッセル発

2023年07月06日

欧州委員会の共同研究センター(JRC)は621日、ヒートポンプの可能性と課題に関する報告書を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EU8,600万台ある居住用建物の暖房設備の約3分の1を化石燃料使用のボイラーから電気を使用するヒートポンプに切り替えることで、家庭の最終エネルギー消費を36%、二酸化炭素(CO2)排出量を28%削減できると試算。EUのエネルギー安全保障の強化や、暖房費の削減にも貢献するとした。ヒートポンプの急速な普及には、熟練した設置事業者や技術者の確保が課題とした。

EUでは建物の暖房が最終エネルギー消費の約40%、エネルギー関連の温室効果ガス(GHG)排出量の36%を占め、このうち居住用建物がそれぞれ約3分の2、約70%を占めている。EU2030年までにロシア産化石燃料依存からの脱却を目指す「リパワーEU」(2022年5月20日記事参照)や、再生可能エネルギーの整備加速に向けた暫定緊急規則案(2022年11月17日記事参照)を発表しており、建物の暖房のエネルギー性能改善は急務となっている。

EU2021年のヒートポンプ市場シェアは居住用暖房全体の21.5%だった。フィンランドでは市場シェアの97%、ドイツは16%、オランダは13%など、加盟国間でばらつきがある。一方、ヒートポンプ需要は2022年に大幅に増加し、暖房用と家庭用温水向けに約300万台のヒートポンプが設置された(前年は220万台)。電力システムの脱炭素化が進むほどCO2排出量の削減効果は高まるとして、スウェーデン、フランス、ルクセンブルグ、フィンランドなど低炭素で電力発電を行っている国では、ヒートポンプの稼働はカーボンニュートラル(炭素中立)に近いと指摘した。電力需要の増加による電力網への追加的な負担は、スマート制御の統合によってさらに軽減できると分析した。

報告書は、需要を満たすのに十分なスピードでヒートポンプの生産規模を拡大できるかは不透明だとした。EUは技術革新で確固たる地位にあるが、デジタル化とシステム統合によって付加価値が生まれ、特に中国との競争が激化する中で、継続した努力が必要だとした。

EUのヒートポンプのサプライチェーンは、コンプレッサーや半導体の輸入依存度が高いなど、幾つかの点で脆弱(ぜいじゃく)だ。設置に必要な工事の種類や、実行可能性を判断する熟練した設置事業者や技術者も不足しているほか、多額の初期投資は低所得世帯に負担となる。冷却剤として使用されているフッ素系ガス(Fガス)の段階的廃止も迅速に行う必要があるとした。

(大中登紀子)

(EU)

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