2015年に東京電力と中部電力の火力発電と燃料、海外事業を継承して発足したJERA。国内最大の発電会社として、電力の安定供給と脱炭素化という両立の難しい課題に挑む。資源獲得競争も激化する中、日本のエネルギーをどう守るのか。

(聞き手は 本誌編集長 磯貝 高行)

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)
PROFILE

可児行夫[かに・ゆきお] 氏
1964年、東京都出身。青山学院大学経済学部卒業後、東京電力(現東京電力ホールディングス)入社。コロンビア大学経営学修士課程修了。主に燃料畑を歩む。2011年の東電福島第1原発事故後、原発事業を切り離した新会社の構想を当時の幹部に提案し、後にJERA発足につなげた。12年、出資先の豪州のLNG開発・販売会社社長に就く。15年のJERA設立の翌年に同社常務取締役に就任。副社長を経て23年4月から現職。

7月から東京電力ホールディングス管内で政府の節電要請が始まりました。電力の供給余力を示す予備率は3%ぎりぎりと言われています。乗り切れそうですか。

 6月下旬ごろから社内の雰囲気はピリピリしています。特に現場の火力発電所は緊張感を持っています。2年前からは需要の高まる夏冬を迎えるたびに、運転開始から40年以上経過した老朽火力発電所を再稼働させています。古い火力は人の手配も大変です。部品を交換しようにも、メーカーがもう作っていないということもあります。

 東電管内の3%は、発電出力で180万キロワット程度に当たります。火力でも原子力でも大型発電所の出力は1基約100万キロワットなので、トラブルなどで複数の発電所が止まると電力需給は厳しくなります。天候に左右される部分も大きい。綱渡りの状況ですが、万全を尽くして対応しています。

奥田社長は戦友

ウクライナ危機以降、世界でエネルギーが逼迫し、燃料調達も難しくなっています。

 昨年の冬はウクライナ危機以降で初めての冬ということもあり、厳冬に備えて結構な量の液化天然ガス(LNG)をスポットで押さえました。スポット調達すると長期契約に比べてかなり高くなります。JERAは法的には安定供給の責任はないのですが、安定供給は我々の使命だと思っています。

 ところが、暖冬になりました。しかも、日本だけでなく欧州も暖冬でした。安定供給に支障が出ずに済んだのはよかったですが、結果的に900億円ほどの損失を計上することになりました。しびれる経営判断です。短期的な需給逼迫に備えるにはこうした損失も時に避けられませんが、長期的に脱炭素化を進めるには多額の資金が必要です。ジレンマがあります。

今春、JERAは可児さんと中部電力出身の奥田久栄社長が2トップとなる共同CEO体制になりました。2人はいわば創業メンバーです。

 私が東電側、奥田さんが中部電側の調整役を担ってJERAを作ってきたので、奥田さんは戦友みたいな存在です。今回、共同CEO体制にしたのは事業領域が急拡大する中で1人のトップが全体を見ることが難しくなっているからです。ビジネスモデルの転換に向けて、再生可能エネルギーなどの事業が広がり、展開する地域も拡大しています。

 ただこの体制をずっと続けることがいいのかは考えどころで、これから私たちの後継者のあり方について議論していきます。

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