脱・温暖化 その手法 第47回 ー電気自動車の次の変化はー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

自動運転が電気自動車の魅力を高める

内燃機関自動車が電気自動車に替わろうとしている。前回、この変化を電話の変化に例えると固定電話が肩掛け携帯に替わったようなものではないかと述べた。電話の世界では肩掛け携帯から手のひらにのる携帯電話へと替わった。その契機はモトローラが手乗りの携帯電話であるマイクロタックを1988年に販売を始めたことであったが、その後、世界中の電気会社、特に日本の電気会社が携帯電話の開発に乗り出し、1995年から大きな普及が始まり、2002年までという極めて短い時間の間に社会に広がった。

車の世界で携帯電話が我々の生活を変えた変化に相当することとは何かを考えた時、自動運転になるということに相当するのではないかと思っている。

世界的に自動運転の研究開発が急速に進められている。この開発の中で安全性を高めて事故を起こしにくい車が先ず開発された。次には車線をはみ出さない車とか、前方の車に自動的に追尾する車が現れた。そして今はドライバーが乗っている状態で、高速道路の一部のような限られた道路では自動的に運転が出来るようになってきた。

このように次第に自動運転技術が向上しており、それぞれレベル1、2、3というように技術が高度化するに従ってレベルが高くなっている。

但し、レベル3までが実用的になった自動車であるが、本来の自動運転とは運転免許を持たない誰でもが、いつでも、どこへでも行ける車である。この段階まで進んだ車の中で、限られた道路であれば自動運転が可能な水準をレベル4と定義し、どんな道路でも自動運転が可能な車をレベル5と呼んでいる。それではレベル4とはどの様な状況を指すのかを想定すると、歩道と車道が完全に分離された道路を作り、人や自転車が決して車を走る道に飛び出さない道路網を完成させた上で、自動運転を行なうということであれば、今まで開発されてきた技術の延長で自動運転はできそうである。

センサーフュージョンと自車位置特定

ところで「自動運転とは何か」ということを述べておく必要がある。車は人間の目で周りを確認し、その情報を脳で判断し、加速したりブレーキを踏んだりハンドルを切ったりという操作をしながら走っている。また以前であれば、紙に描かれた地図と自分の道路の記憶に基づいて走っていたが、今はナビが地図情報と自車位置の関係を判断して進む方向を教えてくれている。これらの運転操作をすべて機械の働きで行なわせるのが自動運転である。

このために目に相当するセンサーを車の周りに付け、そこからの情報をコンピューターで判断して、アクセル、ブレーキ、ステアリングを動作させることで車が走らせるのが自動運転である。

また、車の行く方向を決めるのはナビと同様の地図情報と自車位置情報で、その情報もコンピューターに入力して目的地に走行する機能まで持たせることによって自動運転となる。

現在、目に相当するセンサーはテレビカメラによる画像センサー、レーザーを使ったライダー、電波を使ったレーダー、音波を使ったソナーなどが開発されている。実際の走行のためのセンサーは1種で万能ではなく、幾つかのセンサーからの情報を用いて前方の障害物や車などの検出を行なっている。この様な技術をセンサーフュージョンといっている。

自車位置の特定にはGPSを使うのが主であるが、これは人工衛星からの電波を受信して位置を特定する。しかし、通常のGPSは数メートルの誤差が生じる。このために人工衛星からの電波の他にもう1つの参照となる電波を受けることで2cm程の誤差で自車位置が分かり、実用的な自動運転用の位置検出が可能である。

地図情報については、ナビで使われている地図で道路の位置は分かる。自動運転で重要なことは車線の中央を走ることである。そのためには路面中央に一定区間ごとに磁石を置く技術や車線中央にラインを引く技術などが開発されている。こうして自動運転技術は急速に進んでいる。

現実にレベル4の自動運転を実現するには、車道と歩道の完全な分離が必要だと述べた。それが出来ることでレベル4が実現可能となれば、電話が固定電話から携帯電話に替わったように我々の生活そのものが変化するような大きな変化が自動車の世界でもやってくる。

では歩車道分離をした道路インフラをどうして作れば良いか、については次回述べたいと思う。

デザインコンセプトが固まってきた段階のEliicaのスケッチ。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…