古代の障害児、見捨てられていなかった

2009.03.30
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
53万年前に生きていた初期人類の子どもの頭骨を復元したところ、頭蓋縫合早期癒合症(ずがいほうごうそうきゆごうしょう)というまれに起こる先天異常が確認された。頭蓋を構成する複数の骨が早期に癒合し、脳の発達が妨げられてしまう病気である。

 2009年3月に発表された研究によると、この子どもは10才頃まで生きていたという。つまり俗説に反して、初期人類は障害児を直ちに見捨てたり、命を奪ったりしていなかった可能性がある。

Photograph courtesy the National Academy of Sciences, PNAS
 頭蓋が変形している最古の子どもの骨が発見された。この発見により、初期人類が障害児をすぐに見捨てたり、殺したりしていたという俗説が間違っている可能性が示された。 多くの哺乳動物は、重度の奇形が見られる新生児の育児を放棄することが知られている。したがって科学者たちは、古代の人類も同じような行動を取っていただろうと考えていた。

 しかし、今回発見された53万年前の頭骨の化石は、まれな先天異常を持っていたにもかかわらず10才頃まで生きていた子どもの骨と判明した。頭蓋縫合早期癒合症(ずがいほうごうそうきゆごうしょう)という障害で、頭蓋を構成する複数の骨が早期に癒合し、脳の発達が妨げられてしまう病気である。

 2001年、スペイン北部のアタプエルカでホモ・ハイデルベルゲンシスの複数人分の化石が発見された。ホモ・ハイデルベルゲンシスは、ネアンデルタール人の直接の祖先と考えられている初期人類である。

 発見された骨をつなぎ合わせてみると、1人の子どもの頭骨に奇形の形跡が確認された。この奇形が原因で脳内の圧が高まり、学習能力や知能の発達に問題が起こっていた可能性がある。

 研究を率いたアナ・ガルシア氏は、「子どもはみな、世話を受けないと生きていけない」と話す。同氏は、スペインのマドリードにあるUCM-ISCIII人類進化・行動研究センター(Centro UCM-ISCIII de Evolucion y Comportamientos Humanos)に在籍している。

 しかし、この子どもが実際に10才頃まで生き抜くためには、おそらく特別な世話が必要だっただろうと同氏は考えている。また同氏は、「望まれない子を意図的に殺してしまう行為は哺乳類では珍しくない。人類と遺伝的に近い類人猿でもそれは同じだ」とも解説する。

 この習慣は現生人類の文化でも確認されており、例えばかつてイヌイットは重度の遺伝子異常を持つ赤ん坊を殺していた。また、中世イングランドの救貧院の墓地には、異常といえるほど多数の奇形児が埋葬されていたという。当時の救貧院は、望まれない子どもたちが捨てられる場所でもあったのである。

 しかし今回、化石として発見された子どもは奇形があったにもかかわらず、同じ中期更新世の子どもと同じように世話を受けていたことが判明した。

 この研究は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌の今週号に掲載されている。

Photograph courtesy the National Academy of Sciences, PNAS

文=James Owen

  • このエントリーをはてなブックマークに追加