子どもにシーラントは必要ですか?

【シーラントとは】
【ひかり歯科医院ではお勧めするか?】
【年齢別の適応】
【シーラントの注意点】
【まとめ】

【シーラントとは】
歯に処置する「シーラント」というものをご存じでしょうか?
wikipediaによると1970年代にアメリカから発症した予防歯科概念だというように書かれています。また、シーラントは経年劣化を起こすが、5年程度もつとされる、とも書かれています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%88_(%E6%AD%AF%E7%A7%91)
また、シーラントとはどういうことをするのか?というのは検索していただければ実に多くのクリニックで宣伝していますので参考にしてみてください。(下図は正しいかは置いておいて大体こんな感じというイラストです)

ここではむし歯になってからシーラントをするように示していますが、これでは予防処置ではなくなってしまうので間違いです💦

さて、シーラントは歯科医院で「予防処置」の一つとしておすすめされることがあります。インターネットで検索すると、ほとんどが歯科医院での処置案内になるみたいです。そして、そこにはメリット、デメリットといった内容が記載されています。しかしながら、デメリットの部分では「はがれてしまう」などのみ書かれているにとどまり、本当のデメリットについて書かれていることがほとんどありませんでした。
シーラントといえども人が行う処置です。ということは、メリットばかりではなく何らかのマイナス面もあるはずです。もちろんメリットを享受していただくことを十分に理解していただいて処置することを選択するのはまったく問題ありません。無責任に「やっていはいけない」と言いたいわけではありません。ここで言いたいことは、子どもさんのためにしっかり考えてあげましょう、ということです。

【ひかり歯科医院ではお勧めするか?】
このようなシーラントという処置について、ひかり歯科医院では一人ひとりにあった予防計画を立てるようにしています。そのため、このシーラントというものを一概にお勧めするものではなく、ある子どもさんにはお勧めするけれども、ある子どもさんにはお勧めしない、ということがあります。

<お勧めする場合>
 基本的に歯に対して「処置」を施すことになります。そのため、お勧めする場合は、歯が生えてきたばかりであったり、まだ侵襲を受けていない状態であることが条件でお勧めすることになります。
また、そういった場合でも、実際に処置を行うためには①「虫歯になる前」に、②「完全に清掃」し、③「完全に乾燥」してから処置を施すということが条件になります。
 それぞれについて考察してみます。

①「虫歯になる前に」という条件
 歯が生えてくる時期をイメージしてください。子どもの歯(乳歯)であれば大体2歳くらいに奥歯が生えてくるくらいです。次に、大人の歯への生え変わりの時期があります。大体6歳くらいです。それ以降は個人差があるのでそれぞれに順次生え変わるという具合です。
 この生え変わる時期=大人の歯が出てきたばかりの時期、というのが「虫歯になる前」という状態になります。

②「完全に清掃」という条件
 まずは歯医者さんのベッド(歯科用チェア)に乗っかってゴロンと寝転がれることが大前提になります。そのうえで歯医者さんの機械類(バキュームサクション=つばを吸う機械、コントラ=清掃する電動歯ブラシみたいな機械、など)が恐怖心なく使えることが条件になります。
 また、薬液(次亜塩素酸ナトリウムなど)により歯の表面や溝の奥深くに付着している雑菌を殺菌する必要があります。この薬液殺菌に対しても十分に処置できる必要があります。

③「完全に乾燥」という条件
 子どもの口の中というのは唾液が多く、大人の2倍とも3倍ともいわれています。この環境において「完全に乾燥」させるためには、ロールワッテという綿状のかたまりを歯の周りに置いておかなければなりません。(↓写真参照)
 また、状況に応じてラバーダム防湿(検索してみてください)という処理を行います。
 要するに、唾液に含まれる細菌、究極的にいえば呼吸時の息に乗っかって含まれてくる雑菌すらも触れさせない!という処置が必要になるのです。それが可能になる年齢であるか?またはそうした処置に耐えられるかどうか?というのがポイントになります。

d.Styleさんから引用

<お勧めしない場合>
 上記お勧めする場合以外の場合にはお勧めしないことになります。
 具体的には、少し年齢をさかのぼりますが、そもそも乳歯へのシーラント自体はお勧めしておりません。なぜなら、いずれ生え変わる乳歯ということもありますが、大体2歳くらいに生えてくる子供の歯(シーラント対象となる奥歯に限る)に対して、処置そのものができるかどうかという論点があります。もし、3歳くらいで「完全に清掃」ができて、「完全に乾燥」ができるような子どもさんがいたら、結構レアな子どもさんでしょう。もちろん中には上手にクリーニングなどができる子どもさんもいます。しかし一般的には3歳くらいからようやく歯医者さんのベッドにゴロンと寝られて、機械の恐怖感もなくお利口に処置ができるようになるくらいであれば、そもそも保護者の言うことも理解できますし、虫歯への理解もなんとなく理解できているでしょうから、予防処置が必要かどうかなんて当然ながら不必要であることが多いと思います。
 また、仮に3歳から4歳でシーラントをすることを選択される場合であったら、すでに生えてきてしばらく経過していることから細菌による暴露(歯に菌が住(棲)み着いてしまうこと)、定着が起こっている可能性の方が高くなります。さらに、そもそも乳歯というのは歯と歯の間に虫歯ができやすいものです。歯の噛む面(溝がある部分)は、食べ物そのもので磨かれる効果があったり歯ブラシが一番届くところにあったりで、一番ケアのしやすいところです。それなのにそこをシーラントで埋めるよりも、むしろ歯と歯の間の部分をケアすることの方が大切になります。そのためシーラントで封鎖することが果たしてメリットがあるかどうか疑問に感じざるを得ません。

 したがって、ひかり歯科医院では特別な理由がある場合を除いては、乳歯へのシーラントはお勧めしていない、ということになります。それ以外の時期についても、6歳臼歯が生えてきてしばらく時期が経過してしまった場合(8歳、9歳まで経過していた場合)も、多くの場合はお勧めしないですし、他にも生え変わってきた歯についてタイミングを逃してしまった場合についてはお勧めしないことが多々あります。

↑写真:6歳0か月児の下あごの様子

【年齢別の適応】
 では、具体的に完全乳歯列期(乳歯だけの時期)以降の年齢で6歳臼歯へのシーラント適応はどうかというと、
①完全乳歯列時代に虫歯リスクがあったか?
②これからの食生活や生活習慣の上で虫歯リスクを管理できるか?
③歯の形態異常、形成不全などの器質的問題はどうか?
という点で考えていくと判断しやすいと思います。

 それぞれについて考えていきましょう。

<A>5歳くらいの時期
 そもそも乳歯にシーラントは適用しない、という方針は先に述べた通りです。
 では、早期に生えてきた6歳臼歯、奥の大人の歯の場合はどうでしょうか?
 
 この時期に虫歯になるような生活習慣、食習慣や、ブラッシング不足などが認められていた場合は、「暫間(一時的)シーラント」というものを適用したいと考えています。

 この暫間シーラントというのは、シーラントの材料を柔らかいものに替えて行うことをお勧めしています。一般的なシーラントというものは、プラスチック類の材料を使用しますが、この暫間シーラントはその名の通り一時的(=1年くらい)と判断してすぐにはがれる前提で処置を行います。その材料には、抗菌作用のあるセメントを使用します。この目的は、暫間シーラントによって虫歯リスクを少しずつ低減させていきながら、歯質が強くなる時期まで歯の溝に細菌が暴露される時期を先送りさせることです。

生えてきたばかりの6歳臼歯 磨きにくい
一時的にでもセメントで埋めることで、溝への侵襲が予防される

<B>6歳から10歳くらいの時期
 この時期においても、暫間シーラントは状況によりお勧めしたいところです。
 ただ、半分生えているという状況でなく、すでにしっかり生えてきている状態である場合には、もちろん虫歯リスクがあるようであればシーラントをするべきでしょう。

 しかし、ここで虫歯リスクが無い場合(年齢別の適応で述べた①と②における)、シーラントはどうするべきか?というと、「シーラントはしない」方針を取った方が良い可能性が高いです。あくまで可能性の話になりますが、本来虫歯のリスクが低い、つまり虫歯にはなりにくい背景を持っている生活習慣であった場合では、そもそもシーラントという名の予防処置(=虫歯にならないようにする人工的介入)というものは必要ないはずです。むしろ、人工的介入をすることによって、ずっと人工的に管理していかなければならなくなります。要するに、自然な状態ではなくなり、人が管理していくことを求められてしまうわけです。
 例えば「庭」にみられるように、しっかり手入れをしている庭というものは定期的に草木の手入れをしたり土壌管理をしなければなりません。お手入れを怠ってしまうと草は伸び放題になり荒地のようになってしまうと予想されます。しかし、もともと自然の中にあるような景観、それこそ山の中にあるオアシスのような自然が作り上げた美しい景色というものは人の手が介入していないからこそ見事な生態系の中でバランスが取れた自然美というものがあるはずです。
 人が介入すればすべてが良いものであるわけではありません。健康的な体というものは自然体であるべきで、腕や足が義手義足になったらそれで管理がいらない、というものは一切考えられないものです。
 もちろん<年齢別の適応で述べた③>にあるような形態異常がある場合には、その限りではありません。①と②との関連性も含めて熟考してシーラントをすべきかどうかの判断をした方がいいでしょう。

<C>11歳以降
 基本的に11歳以降となると、最後の12歳臼歯に対する考え方はこれまでのAとBを合わせて判断できると思います。ただ、それまでに生えてくる4番目、5番目の歯(側方歯群と呼ばれています)についてはそれぞれ時期を見て判断した方がいいでしょう。

【小括(まとめ)】
 以上のような<お勧めする場合の①、②、③の条件>が満たされて初めてシーラントというものは成功するものです。それ以外は暫間シーラントを活用して虫歯リスクを考えながら。
 したがって、シーラントそのものは年齢的な条件でいうと6歳か7歳くらいに適応されます。なおかつ、生えてきたばかりの歯が対象になり、やや生えてから時間が経過しているという場合にあっては暫間シーラント程度にして、「歯の形態異常」がある場合においては適応、という判断が適切だと考えます。

【シーラントの注意点】
 ここまではシーラントの適用について述べてきました。
 ここから述べる注意点についてはあまりお伝えしたくないのですが、一般的にデメリットと言われる部分になりますのでしっかり把握していただきたいと思います。

 下の写真に示すのは、左側がシーラントをした歯です。実はこの方は、レントゲンを撮影したところ、シーラントの中に虫歯になっているような写り方をしていたのでシーラントを外してみました。すると、中に大きな虫歯がありました。シーラントはそもそも虫歯予防処置という名目でされているのですが、このような結果になったのは非常に悔やまれます。
 実は先に述べたような、「完全に清掃」、「完全に乾燥」という処置が不足していたことが原因ではないかと思われます。もちろん、人が施す処置ですから100%というものはありません。しかし年齢的にも若い時に行った予防処置としては非常に残念な結果です。

左がシーラント、右がシーラントを外したところ

 なお、こういった事例はシーラントに限らないのです。下に示しているのは虫歯に対してその穴を処理した後にプラスチック製の材料で埋める「コンポジットレジン」という材料で充填しているものです。シーラントのケースと同様に、レントゲンで中に虫歯のような写り方がありましたので、材料を外してみました。すると案の定、詰め物の中に大きな虫歯ができていました。

上がレジン充填していたもの、下がレジンを外したところ

 このように、シーラントをすれば必ず予防できる、安心安全である、というわけではありません。だからと言ってシーラントはダメだ!というものでもありません。きちんと判断して、条件さえクリアして処置を行えば、虫歯になるリスクがある
歯をかなりの確率で虫歯から守れることは間違いないのです。

 先の「庭」や「義手」の例でも想像できると思いますが、人工的なものほど管理が必要になります。つまり、シーラントをしたから超安心!みたいなことはまったくありません。シーラントをしたからこそ、将来的にわたってずーっと管理が必要になるのです。
 この虫歯になってしまった方も、もしかしたらシーラントをして定期的にレントゲン撮影をして管理していたらこのような結果にはならなかったかもしれません。また、管理と一言で言っても、集団検診、学校検診のような一人一分程度しかお口の中を見られないような検診では虫歯を見逃してしまう場合もあります。それにシーラントだけでなく治療した材料の中の状態を目で診ることはできません。

「管理=歯科医院でのレントゲンや写真撮影を行い食生活習慣を含めた継続的管理」

と考えていただきたいと思います。


【注意点(デメリット)小括】
シーラントをしたからといって管理が不要になるわけではない
シーラント(=人工物)であり、溝の中が目で見えなくなるので定期的なレントゲン確認が必要になる

【まとめ】
最後のところでデメリットが印象的になってしまいましたが、結論としては
①まずは虫歯リスクがあるかよく考えましょう
②時期的に適応なのか、歯の形態として適応なのか、よく考えましょう
③処置が適切に行えるのか、シーラントをすることはデメリットよりメリットが上回るのか、よく考えましょう
ということになります。
 つまり、メリットやデメリットもありますが、そもそも虫歯の成り立ちについてから子どもさんのお口の管理がきちんと考えられるかどうか、ということが大切です。率直に言って、「歯医者さんにお任せします」、でははっきり言って分かりません。なぜなら生活習慣や食生活が細かく分かるわけではないからです。当然のことながら、「シーラント」をしたからと言ってむし歯リスクがゼロになるというものでもないわけです。結局最後に決定打となるのは、食生活習慣に尽きるのです。

【さいごに】
 子どもさんたちの健康を守れるのは、自分自身とその保護者の方が一番です。医療者側としてはそのお手伝いをできるにすぎません。できる限り情報提供はしていくつもりですが、もし分からなければ「相談したい」の一言を伝えていただければ一緒に考えていくことはできます。
 ぜひ、子どもたちの健康にプラスになれるようにしていきましょう。

文責:院長 益子正範