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 今年も3月11日を迎えました。死者数1万5900人、第二次世界大戦以降、最も大きな被害となった東日本大震災から12年が経ちました。

 震災の年に生まれた子供たちの多くが、この春小学校卒業を迎える。そんな年月が経過したことになります。今後、震災を体験していない世代が増えるとともに、人々の震災の記憶は徐々に薄れていくでしょう。だからこそ3月11日は、巨大津波で家族を失った方々や、東京電力・福島第1原子力発電所事故で故郷を離れざるをえなかった方々の思いに寄り添う日にしたいと思います。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 被災地域ではこの12年、懸命な復興が続き、生活再建の歩みは着実に進んできました。一方で、まったく動かなかったのが原子力政策です。「原子力を争点にしたら選挙に勝てない」と言われ、これまで政治がエネルギー政策に積極的に取り組むことはありませんでした。

 再生可能エネルギーの導入は進んだものの、原子力を今後どうしていくのかは曖昧にしたまま時間だけが経過し、日本のエネルギー政策の基盤である「エネルギー基本計画」は今なお2030年に電力の20~22%を原子力で賄うとしています。

 原発事故から12年が経過しても、原発が再稼働したのは関西エリアや九州エリアなど西日本に限られます。東日本に多くある、福島第1原発と同じ「BWR型原子炉」の原発は1基も再稼働していません。2022年11月に公表した2021年度の電源構成で原子力はわずか6.9%。2030年に原子力で20%以上を賄うというエネルギー基本計画がいかに玉虫色なものであるか分かるでしょう。

 福島第1、第2原発が廃炉となり、柏崎刈羽原発は相次ぐ不祥事で止まったまま。東京エリアの電力需給は薄氷を踏む状況が続いています。2022年3月、運用開始以来初めての「電力需給ひっ迫警報」が東京エリアと東北エリアに発令されました。6月には「電力需給ひっ迫注意報」が東京エリアだけに発令されました。

 電源開発は時間もお金もかかります。エネルギー政策が曖昧で将来が見通せない状況では、民間企業は意思決定できません。原子力の稼働状況が見通せない状況下では、LNG(液化天然ガス)の調達にも柔軟性を持たせておく必要があります。昨今の電気料金上昇を背景に、LNGの長期契約を増やすべきだとう声がありますが、長期契約を増やし調達量を硬直化させる判断は難しいでしょう。

 それ以外にも、原子力の行く末が見えないことが電気事業に様々な影響をもたらしています。大手電力各社の燃料費調整額の算定式には、相当量の原子力の稼働が折り込まれていることから、実際の燃料費の変動と連動しない状況となっています。また、大手電力が動かない原子力の固定費や増え続ける安全対策コストを負うことで、結果として電力市場の価格形成が歪められています。

 電気料金上昇や需給ひっ迫の頻発、電力市場の高騰による新電力の撤退といった昨今のエネルギー問題の根底には、塩漬けの原子力政策があります。決してウクライナ戦争だけが原因ではないのです。