日本のカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)実現に向けた切り札として期待される風力発電に「新たな制約」が浮上している。巨大化が進む風車がミサイルを検知する自衛隊のレーダーなどに干渉する恐れがあるというのだ。北朝鮮による弾道ミサイル発射が増えるなど国防上の懸念が増す中、再生可能エネルギーの拡大と国家安全保障の両立が新たな課題になっている。

風力発電の開発を巡っては、自衛隊のレーダーへの干渉といった新たな課題が生まれている(写真=PIXTA)
風力発電の開発を巡っては、自衛隊のレーダーへの干渉といった新たな課題が生まれている(写真=PIXTA)

 青森県北西部の日本海沖。ここに国が大規模な洋上風力発電プロジェクトを導入するための「再エネ海域利用法」で指定した2つの「有望な区域」がある。有望な区域とは事業者を選定済みだったり選定している途中だったりする海域に次いで、近い将来公募を始める区域だ。

 この2つの海域は本来、広さとしては1つのくくりになってもおかしくない。しかし、国はあえて「青森県沖日本海(北側)」と「青森県沖日本海(南側)」に分けた。洋上風力発電プロジェクトの受注を狙うある企業幹部は「分断されず、1区域であれば採算が取りやすかったのだが」と肩を落とす。海域が広ければ広いほど、多くの風車を立てられるので魅力が高まるからだ。

 一体なぜ分断したのか。前出の企業幹部は「北朝鮮のミサイルを感知するレーダーがあり、区域が南北に分断されたようだ」と話した。

 実はこの2海域の中央に位置する青森県つがる市には米軍の車力通信所がある。「Xバンドレーダー」と呼ばれる弾道ミサイルを探知、追尾するレーダーが設置されており、この付近に大型の風車が設置されれば妨害しかねないという。

 青森県は2019年、洋上風力発電設備を建設できるエリアを参考として示す「ゾーニングマップ」を作成した。自然環境の保全や騒音への配慮、防衛施設への影響回避といった多様な条件を考慮したものだが、車力通信所沖合の海は赤く半円状に塗られている。赤色は「立地が困難なエリア」。青森県の担当者は「いざ、条件を落とし込むと、防衛関連でかなりの影響があることが分かった」と話す。

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