先住民の「命の源」奪った巨大ダム 中国と手を結んだ米の裏庭はいま

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ホンジュラス政府が中国の支援でパトゥカ川に建設した水力発電ダム=ホンジュラス電力公社提供
ホンジュラス政府が中国の支援でパトゥカ川に建設した水力発電ダム=ホンジュラス電力公社提供

 中南米は歴史的に米国の影響力が強く、その「裏庭」と呼ばれる。だが国力を増した中国は近年、浸透を図る。その一つが中米のホンジュラスだ。中国は資金力を背景に巨大な水力発電ダムの建設を支援し、関与を強化。ホンジュラスは今年3月、台湾と断交し、中国と国交を樹立した。しかし、巨大ダム建設で生活環境が急激に悪化し、下流域に住む先住民たちは不信感を募らせている。

 ホンジュラス東部、カリブ海沿いの都市プエルトレンピラから6人乗り軽飛行機で約1時間飛ぶと、眼下に緑一色の大地が広がった。隣国ニカラグアまで広がる密林地帯は「ラ・モスキティア」と呼ばれる。面積はホンジュラス側だけで岩手県より少し広い169万ヘクタール。ミスキト族やタワカ族など数万人の先住民が暮らす。

 密林を縫うように走る全長約500キロのパトゥカ川をカヌーで進んだ。気温は37度。湿気を帯びた暑さで汗が止まらない。ミスキト族の案内人兼通訳、オルランド・マヌエルさん(64)が説明してくれた。「道路がほぼないラ・モスキティアで、川の航行は先住民にとって唯一の移動手段だ。先住民は川沿いの畑でインゲン豆などを育て、魚を捕り、シカやイグアナなどを狩ってきた」

 川沿いには、軒先にハンモックがつるされた高床式の木造家屋が並ぶ村が点在し、女性が川の水で衣類を洗濯したり、子どもが裸で泳いだりしていた。先住民らを乗せたカヌーと何度もすれ違った。

 ホンジュラス政府が電力不足の解消のため、パトゥカ川の上流にダム建設を決めたのは2010年。中国国有の中国工商銀行が事業費の6割強に当たる約3億ドル(約432億円)を融資し、設計・建設は国有の中国電力建設グループが担った。ダムは21年1月、本格稼働した。運営するホンジュラス電力公社(ENEE)によると、出力は10万4000キロワットで、同国の総人口の1割強に当たる約150万人に電力を供給できる。

先住民の集落で起きた異変

 しかし下流の先住民の集落では異変が起きていた。…

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