脱・温暖化その手法 第55回 ―太陽光発電の土地をどうするか その2 農業との融合―

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

太陽光発電の可能性は林業だけではない

前回は太陽光発電と林業の融合について述べた。日本の人工林との融合を図れば、年間1兆kWhの電力が起こせることを明らかにした。ただし前々回にも述べたが太陽光発電量が最も多いのは5月から8月にかけてであり、1、2月は少なくなるが、電気の需要は冬に多い。

ここの差を解消するためには、農業との融合が有効になる。日本には2021年の統計で240万haの田圃がある。米作りは3月頃に田圃を掘り起こす「田おこし」から始まる。次いで田圃に水を入れてかき混ぜ泥状にする「代かき」を行ない、田植えとなる。そして水の管理をしながら田の草取りの作業を続け、9月の収穫になる。この間約7ヶ月間は米作りのために田圃が使われるが、稲刈りが終わって次の年の「田おこし」まで約5ヶ月間の秋から春先までは利用されていない。

この間はここに太陽電池を設置すれば、冬の間の需要の多い期間に発電をすることができる。太陽電池の発電効率を10%とすると、この期間で1兆kWhの発電ができることになる。

日本の耕地面積とその割合
田んぼの面積は約240万ヘクタール。そして畑は約110万ヘクタール、
樹園地は26万ヘクタールである。(農林水産省/令和3年10月26日)

稲作とのコラボで発電も

ここで、本来ならば前回の内容に含めなくてはいけなかったのではあるが、太陽光パネルでの年間の発電量は、その向きに拘わらず、それ程変わらないということである。南向きの最も発電量が多い角度に設置した場合に比べて水平に置いた場合で、8%の減少となり、北向き60度の角度の場合でも60%の発電が可能である。その理由は空からの光の強さは太陽から直接届くいわゆる直達日射のみではなく、大気中の分子によって上空で太陽光が散乱されることによる全天日射によっても発電が可能であるためである。全天日射とは、大気により太陽光が散乱され空が青く見えることと同じ意味である。

このため、ここでは太陽光パネルの効率を15%と考え、その設置の方向は厳密に考えなくても10%の効率で発電ができると考えていることによる。また、日本全国で見ると日照時間の長いところと短いところがあがるが、その差も年間約20%であるため、その差も見込んでパネルの効率は10%として計算している。

実用的には少し高度な技術となるが、稲作が行なわれている間にも発電との融合をするという考え方もあり得る。これは田圃全面にパネルを敷き、苗を植えるところだけに小さな穴を空けておく。田植えの時にこの穴のみに苗を植える。すると稲が育っている間にでも太陽光による発電は有効にできる。もちろん稲が成長するにつれてその影の分だけ発電量は減少するが、植物の葉は背の低い植物に対しても光が行くように極めて密に茂るわけではないので、田圃にパネルを置いてもかなりの発電量が得られる。

この技術を用いることの利点は春から秋にかけても発電が可能であるとともに、田の草刈りがほとんど要らなくなることである。

農産業との協業による新たな可能性

田の草刈りは大きな労力を要するのみならず、除草剤散布による汚染も心配されるところであり、かつ除草剤の購入費用もかなりの額になる。稲作と太陽光発電を同時に行えば、これらの労力や費用は節約できることになる。この技術が現実化するには太陽光パネルの作り方に大きく依存する。これまでのパネルはガラス基板の上で作ることが基本であった。このようなパネルは1m2当り約10kgの重さがあり、かつ曲げることができない。ところが本連載であと何回目か後に紹介する新しいパネルは超軽量で、かつ自由に折り曲げることができるという特徴を持つ。このパネルで同時に機械的強度が十分強ければパネルの上で田植機や草刈り機を利用することが可能である。

ということで秋から春にかけての田圃のみならず、春から秋まで1年中有効に田圃を使った発電を行なうことができる。

その結果、林業との融合の場合と同様に米を作ることと田圃を使った発電電力の販売によって、米作りによる収入が大きくなる。

さらに稲が成長している間も、その場所を使って太陽光発電が可能であるとすると110万haある畑及び26万haの果実を育てている樹園でも、太陽光発電との融合が可能となることが予測される。

これらの春から秋の田圃の利用や、畑、樹園との融合によってもさらに年間1兆kWh以上の発電を見込むことができる。

ただし、そのための技術の完成にはまだ時間が掛かることと、多くの種類の作物が作られている畑や樹園での太陽光発電との融合の発展に与える効果が現時点では定量化できない。このため、今回の農業と太陽光発電の融合については、秋から春に掛けて田圃を使って発電をすることで得られる1兆kWhを発電可能量と考える。

太陽光発電が可能な場所として、海に囲まれた日本では広い面積の内湾の有効利用も可能である。次回はその可能性と効果について述べる。

2003年、東京モーターショーへのEliicaの展示
この年から自動車メーカー以外でも展示が認められるようになったので、
モックアップの状態で展示を行なった。後方に展示してあるのは、2002年
に完成させたKAZ。この展示では、慶応大学全体から学生のメンバーを募
り、すべての準備を学生たちが行なったことで、成功を収めた。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…