原発の「最大限活用」に向けた関連5法案の審議が始まった。その中に含まれる原子力基本法の改正案は、原発を使い続けるための「国の責務」や施策を事細かに書き込み、将来にわたって推進一辺倒で突き進むかのような内容だ。この改正に反対する。

 基本法は、戦後の原子力開発にあたり、議員立法として1955年に制定された。原子力利用の推進を掲げる一方で、平和目的に限り、「民主、自主、公開」の三原則を置いた。諸施策の根拠法とされ、「原子力の憲法」とも言われる。

 改正案は、条文を大幅に増やした。中には、東京電力福島第一原発の事故を「真摯(しんし)に反省した上で、原子力事故の発生を常に想定」して防止に最大の努力を払うとの記述もある。事故から12年、遅ればせながらであるが、この部分は評価できる。

 ところがその後に続くのは、今後何があっても原発利用を推進していく姿勢を示すとも受け取れる内容がほとんどだ。「基本的施策」の項には、原発関係の技術開発の促進や人材育成、産業基盤の維持・強化といった記述が並ぶ。

 さらに、原発事業者が安定的に事業を行える環境を整備するといった趣旨の項目があり、その前置きとして「電気事業に係る制度の抜本的な改革が実施された状況においても」と記している。安全のための資金確保は必要だが、電力自由化などで原発が不採算になった段階でも、国が事業継続を支え続けると宣言することにならないか。

 使用済み核燃料の再処理についても「着実な実施を図る」と書き込んだ。再処理の前提になる核燃料サイクル政策は、中核の高速炉計画が頓挫し、行き詰まりが明らかだ。それに固執する姿勢を基本法に盛り込むのも理解できない。

 利用促進ばかりが並ぶ背景には、改正案が、電気事業法改正などとの「束ね法案」として出されている構図がある。

 岸田政権は、原発の運転期間の規制の観点を、従来の安全性確保から「利用政策」に移し、長期運転を可能にしようとしている。電気事業法改正案にはそうした内容が含まれ、基本法改正案にも平仄(ひょうそく)を合わせた記述がある。しっぽが頭を振り回しているのが実態ではないか。

 エネルギー情勢や再生可能エネルギーを含めた関連技術は変革期にあり、原発をめぐる環境も将来大きく変わりうる。基本法の次元で原発のいっそうの推進を固定化し、方向を見直すハードルを上げれば、禍根を残す。「原発復権」のために基本法まで様変わりさせるようなことは、断じて許されない。