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冬の電力供給 現場に潜入!

2023年2月8日

名古屋市の中部電力本店内にある「中央給電指令所」。中部エリアの人口約1600万人の電力需要を満たすため、電力供給を差配する"司令塔"だ。2023年1月13日(金)。限られた社員しか立ち入りを許されないコントロールルームに私たち取材班のカメラが入った。その3週間前、年の瀬も押し詰まった12月22日。私たちは愛知県知多市にいた。ある火力発電所の内部を映像に収めるためだ。この2つのロケの狙いは東海地方の電力をめぐる現状を浮き彫りにすることだった。

(東海ドまんなか!「電力問題取材班」)

需給は一致しなければいけない!

指令所の中に入ってまず目を引くのは、さまざまなグラフや発電所名が壁一面に表示された巨大なメインモニターだ。ここでは職員が交代制で24時間365日、このモニターと向き合っている。折れ線グラフで表示されているのは、その日の中部5県の電力需要の推移。もちろん刻々と需要は変化していく。これに対して電力供給を「常に一致させる」必要があるのだ。これは「同時同量」という原則。多すぎても少なすぎてもいけない。このバランスが崩れると周波数が乱れ、最悪の場合、大規模な停電にもつながりかねない。さまざまな発電所を駆使しながら、この「同時同量」を実現するのがこの指令所の使命だ。

この日の調整の要となったのは入社4年目の今井佑里恵さん。午前8時すぎ出社した今井さん。すぐに電力需要のピークと向き合うことになる。冬の電力需要のピークは社会活動の立ち上がりとともに暖房や照明需要が急増する午前9時ごろ。この需要の盛り上がりに、即座に対応する必要がある。だが、これは予想されたこと。冷静に火力発電を投入してピークを乗り切っていく。この日の勝負所は午後に訪れた。

「電気なくなってきちゃった」

午後1時48分。今井さんに付けたマイクから聞こえたつぶやきに、私たちの取材クルーは反応した。「電気なくなってきちゃった」。なくなってきたのは「太陽光発電」だ。同じ時間、外では天候が急変し急速に日照が低下。午前中まで順調に発電していた太陽光発電が急速に減少しはじめていた。

午後2時ごろには快晴時の38%まで発電量が減少。一方で、昼休みが終わり世の中の電力需要は再び増加する。不足分を急きょ補う必要が出てきたのだ。今井さんが、指示を出したのは岐阜県にある「揚水式水力発電所」。揚水式水力発電は高い場所にくみ上げてあるダムの水を一気に落とし、水車を回して発電する。出力の調整に時間がかかる火力発電などと比べ、短時間で供給力を確保できるのがメリットだ。しかし・・・

今井佑里恵さん

「だめだ、太陽光が急降下しちゃっていますね。これは大変や」

太陽光の減少による不足分をすべてまかなうことはできず、今井さんはさらに愛知県にある別の「揚水発電」を1台稼働させるよう指示。なんとか急場をしのいだ。

冬場の需要は、夕方の帰宅時間にかけ再び盛り上がりを見せる。家庭の暖房需要などが増加するからだ。ここで今井さんが頼ったのは火力発電だった。午後4時30分から火力発電所を追加で稼働させるように指示。「揚水式水力発電」はダムの貯水量に左右されるため、無尽蔵に使うことはできない。上司との検討の結果、夕方の需要の盛り上がりには火力を中心に対応する方針を決めたという。

今井佑里恵さん

「火力発電と水力発電を、まんべんなく発電するかたちで運転していたのですが上司のほうから水力発電の水位が低いので火力発電をしっかり出力を上げて水力発電を温存するようにというアドバイスをいただきました」

中央給電指令所 松本理 所長

「火力を全台入れて、気温が上がらない厳寒では、揚水をどれだけ使えるか考えながら運用しますし、ほかのエリアの余力も考えながら必要な調整力を確保することになるかと思います。この冬、どこでまた雪が降って寒くなるか分からないので。変動リスクを常に考えながら気を引き締めてやっていきたい」

この日の発電の状況を振り返る。太陽光発電が減少した分を揚水発電などで補ったものの、全体の7割程度は火力発電に頼る結果となった。静岡県にある浜岡原子力発電所が稼働を停止する中、火力発電の存在感が増していることが可視化されたと言えるだろう。

老朽火力を再稼働せよ

中部地方の電力需要を支える主力の「火力発電」。最新鋭の火力発電はフル稼働状態だ。そこで白羽の矢が立ったのがいわゆる「老朽火力」。愛知県知多市にある「知多第二火力発電所1号機」。稼働開始からことしで40年になるこの設備、本来はこの冬稼働する予定はなかったが、この冬の厳しい需給を踏まえ急きょ再稼働が決定した。関係者が動き出したのは昨年末。連絡を受けた私たちはカメラを抱えて駆けつけた。

この日早朝から行われていた試運転では、ベテランの運転員たちが異常がないかモニターの数字を見つめていた。順調に出力が上昇していた午前10時すぎ、運転員からの報告に責任者が突然声を上げた。「あーーーー。上が漏れてるのか!」。火力発電では、水を熱して水蒸気にしたうえで、その力でタービンを回転させ発電する。発電設備内にはその配管が張り巡らされている。その一部から水蒸気が噴出していたのだ。

責任者たちが慌ただしく現場に向かう。ほどなくして流出か所を特定、すぐに対策を講じたことで噴出は止まった。原因は老朽化でバルブが緩んでいたことだったという。昼前には無事予定していた出力に到達したが、設備の老朽化は避けられない。この発電所では、1日2回の設備点検を実施し、少しの異常も見逃さないよう監視態勢を強化している。

知多第二火力発電所 武田邦彦 所長

「止めていた我々の発電所もどうしても必要だという判断の中で運転することになった。われわれに課せられている使命は1月2月の需要が厳しいときに1号機をきちんと運転するんだということに尽きる」

ことしの夏冬も厳しい状況

今回の密着で私たちが目の当たりにしたのは、安定供給の使命を果たすため奔走する社員たちの姿、そして火力発電が電力供給を支えているという現実だった。静岡県にある浜岡原子力発電所は国の審査が進んでいるものの、稼働再開時期は見通せないままだ。太陽光や水力といった自然エネルギーはクリーンだが、発電量に限界がある。もちろん火力発電については「脱炭素」や「燃料費高騰」の観点から見れば「ベストな選択ではない」という意見もあると思うが、とって代わる主役が見い出せないという現実は受け止めなければいけないだろう。

全国の電力需給を調整する機関が示した予測では、来年度の電力需給も厳しくなりそうだ。こちらは電力供給の余力を示す「予備率」。中部電力管内では、2023年7月の予備率が4.3%。2024年1月の予備率は4.9%。ともに安定供給に最低限必要な「3%」のラインは上回っているものの、中部電力ではトラブルなどが発生すれば、一気に需給がひっ迫しかねない状況だと話している。私たちがすぐ取り組めることは「節電」だろうが、一長一短ある発電方法をどのように組み合わせて電力供給の「ベストミックス」を実現するのか、あるいは次世代の電力を担う新技術・新エネルギーが現れるのか、構造的な課題の行方にも注目していきたい。