民医連新聞

2023年7月4日

気候危機のリアル ~迫り来るいのち、人権の危機~ ⑪気候変動対策の先進事例・地域課題 文:気候ネットワーク

 気候変動対策を実行していくためには、人びとが生活を営む「地域」のとりくみが重要です。環境省の資料によると、現在934自治体が2050年ゼロカーボンシティ(CO2排出量が実質ゼロの都市)を表明しており、脱炭素社会への移行をめざしています。また気候変動対策を実施する地域を支援する「脱炭素先行地域」を選定するとりくみでは、各地域から62提案が選定され、地域独自の課題やニーズに応じた気候変動対策を展開しています(図)
 脱炭素先行地域に限らず、先進的な気候変動対策を実施している地域もありますので、いくつかの事例を紹介します。
 京都府と京都市では条例で、一定以上の面積を有する建造物を新増築する際に、再エネ設備の設置が義務化されています。東京都と川崎市(神奈川)は小規模建築物を対象に、太陽光発電設備の設置を義務付ける制度があります。
 鳥取県では国の基準を上回る独自の断熱建築基準を設定することで、住宅の省エネ対策を推進しています。独自基準に合致した住宅については助成金が交付されるので、断熱性能を向上させるための費用を一部賄うことができます。
 札幌市、川崎市、武蔵野市(東京)、所沢市(埼玉)などでは気候市民会議を実施し、気候変動対策に市民から提言できる機会を設けています。気候市民会議は2019年頃から欧州などで実施され、無作為抽出によって選ばれた市民が地域の気候変動対策について話し合う、新しい市民参画の手段として注目されています。
 自治体と地域新電力会社が協力して、地域内の公共施設などに、再生可能エネルギー由来の電力を供給している事例もあります。同時に省エネ対策のアドバイスをしたり、地域内の施設に太陽光発電を設置したり、利益の一部を地域に還元するとりくみも行っています。
 こうした先進的な事例がある一方で、多くの自治体は地域に専門知識を有した人材がいない、地域に核となる事業者がいないといった担い手不足の課題を抱えています。先進事例のような対策の実行には専門性が求められ、持続的に実行するための事業者が不可欠です。今後は地域の専門性を補完するための中間支援組織や、地域のエネルギーマネジメントを担う地域エネルギー事業者の育成・支援など、地域特性を加味した総合的で長期的な気候変動対策の仕組みづくりが求められています。(延藤裕之)


気候ネットワーク

 1998年に設立された環境NGO・NPO。
 ホームページ(https://www.kikonet.org)

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