今後のセミナー

2024年5月11日 第168回 塩出 浩和 氏

マカオにおけるカジノの社会的費用対策

講演案内

  賭博は元来、経済学で扱いにくい行為である。古典的な経済学では、人間の合理的な理性による判断を議論の出発点とする。しかし、賭博(をさせる)という行為は「人間の理性の有限性」につけ込むことで成り立っている。賭場・カジノさらにパチスロ屋は人間の「非合理な行為」をビジネスの種とする。一方、賭け事の刺激性はある種の幸福感をもたらす。賭博が「打ち人」を幸福にするとしても、この行為は「打ち人」本人にとって、さらに彼/彼女にかかわる周りの人々に対してもいくつかのマイナスの作用をもたらす。
 行政府からみた場合、便益の最大のものは税収増である。社会経済的には、インフラとゲーミング施設の建設に伴う固定資産投資の増加、雇用の拡大、宿泊や飲食などサービス産業全般の収益増などが見込まれる。
 一方、カジノは外部不経済を含む一定の社会的費用をも発生させる。カジノは本質的かつ統計的に胴元に収益をもたらす仕組みになっている。そのため、来訪者の家計を破綻させるリスクを常に伴う。賭博行為の「ワクワク感」は精神的・病的な依存につながる。
 マカオのようにさほど広くない土地にカジノ施設を造る場合、土地という有限の資源を住宅や学校そして病院などといった公共性の高い用途と奪い合うことになる。人材もまた、カジノとそれに関連するホテル・レストラン・エンタテインメント施設などに流れてしまい、他の産業にはなかなか回らない。
 上述のような社会的費用を軽減するための対策がマカオではどのように行われているのかについて報告する。

所属:城西国際大学教授

略歴

 1960年 横浜市生まれ
 1982年 慶應義塾大学法学部政治学科卒業
 1982-83年 香港中文大学社会科学院留学
 1985-89年 Center for the Progress of Peoples 研究員
 1990年 国際大学アジア発展研究所研究員
 2000年 城西国際大学語学教育センター専任講師
 現在 城西国際大学国際人文学部国際文化学科教授
    中央大学経済学部・同大学院総合政策研究科非常勤講師
 専攻 中国近代史・華南社会・マカオ

主要実績

Japanese Investment in Southeast Asia -Three Malaysian Case Studies,
HongKong: Center for the Progress of Peoples, 1989.
・“Tumen River Area Development Programme: The North Korean
Perspective”, Myo Thant, Min Tang and Hiroshi Kakazu eds., Growth Triangles in Asia -A New Approach to Regional Economic Cooperation, HongKong: Oxford University Press, 1994.
・『可能性としてのマカオ』亜東書店、1999年。
・「香港における戦勝と解放」川島真・貴志俊彦編『資料で読む世界の8月15日』
山川出版社、2008年。
・「戦後香港における憲政改革と香港社会 -1947年から48年-」中央大学人文科学研究所編『中華民国の模索と苦境 1928~1949』中央大学出版会、2010年。
・『変容する華南と華人ネットワークの現在』風響社、2014年(谷垣真理子・容應萸との共編著)。
・2011年から『東亜』に「マカオは今」を隔月連載中。