主張

エネルギーと日本 石油危機の教訓を生かせ 原発活用で安定供給の確保を

世界的なエネルギー危機が吹き荒れる中で新年を迎えた。ロシアによるウクライナ侵略に伴い、燃料価格は歴史的な高値水準を記録している。海外からの資源輸入に依存する日本も電気・ガス料金が大幅に値上がりするなど、家計や企業は負担にあえいでいる。

深刻な電力不足も解消されていない。電力自由化と脱炭素で火力発電所の休廃止が進む一方、新規の発電所投資は停滞しているからだ。とくに原子力発電所が1基も稼働していない東日本では、暖房用の電力需要が高まる1~2月に電力需給の逼迫(ひっぱく)が懸念される。

建て替えや新増設盛る

今年は第1次石油危機から50年の節目の年でもある。日本はこの国難を省エネと原発の推進で乗り切り、技術開発を通じて環境立国の地位を築いた。

新たなエネルギー危機を迎える中、日本は原発と再生可能エネルギーの脱炭素電源で電力の安定供給を確保しつつ、水素など次世代エネルギーの開発・普及を進め再び世界を牽引(けんいん)したい。

岸田文雄首相は昨年末、これまでの原発政策を転換した。東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故後、政府は「原発の建て替えや新増設は想定していない」としてきたが、原発の長期的な活用に向け、建て替えや新増設などを明記した基本方針を決めた。

政府が目指す「2050年のカーボンニュートラルの実現」に加え、電力の安定供給を両立させるには原発の活用が欠かせないと判断した。現実的な対応だが、今年は何よりもこの基本方針を実行に移すことが問われる。

世界のエネルギー情勢は緊迫度を増すばかりだ。侵略戦争を続けるロシアに対し、日本を含めた先進諸国は制裁を強化している。これに反発したロシアは、欧州への天然ガス供給を削減するなど強い揺さぶりをかけている。日本も供給途絶への備えを急ぐべきだ。

世界的な混乱で資源価格は大きく上昇し、日本が輸入する石炭や液化天然ガス(LNG)価格は1年前の数倍に達している。世界は資源争奪競争を繰り広げており、日本も資源戦略の練り直しを迫られている。政府は輸入先のさらなる多角化を進める必要がある。

こうした中で原発の新増設や建て替えに慎重だった政府の姿勢を転換し、新型炉などの開発・建設に取り組むのは当然だ。最大60年としてきた原発の運転期間の実質的な延長も図る。原発の活用でエネルギー危機下でも電力の安定供給を確保してほしい。

そのためには原発立地自治体の理解の獲得も不可欠だ。とくに今年は、東電の柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働が視野に入る。原発事故を引き起こし、その後もテロ対策で不祥事が続く東電には地元も不信感を募らせている。

東電の意識改革は必須だが、政府も地元の理解獲得に努めねばならない。原発立地自治体は再稼働にあたって政府の関与を求めている。原発の安全監視などに政府も参加し、必要に応じて岸田首相自らが地元に説明するなど、主体的な取り組みを示すべきだ。

電力逼迫の懸念も続く

電力の安定供給には、電力産業の構造的な問題の解決も待ったなしだ。政府は東日本大震災後、電力自由化を進め、ガスや石油、通信などを中心に700社以上が電力市場に新規参入した。しかし、最近の燃料価格高騰に伴い、撤退や事業中止が相次ぎ、市場では混乱が広がっている。

昨年3月には東日本で電力需給逼迫警報が初めて発令された。地震で火力発電所が停止して供給力が急低下する中、季節外れの寒さで電力需要が急増したのが原因である。ただ、この背景には、電力自由化による競争激化と脱炭素の進展に伴い、火力発電投資が停滞している構造が挙げられる。

燃料価格の高騰による新電力の撤退や供給不安、火力発電投資の停滞などは電力自由化が想定していなかった事態である。政府は自由化の問題点を徹底的に検証し、早急に改善すべきである。

半世紀前に中東紛争を契機とする石油危機に襲われた日本には狂乱物価が吹き荒れ、高度経済成長は終焉(しゅうえん)を迎えた。だが、日本はその後、この危機を好機に変えて改革を進めた。省エネや脱炭素は日本の技術力を生かす絶好の機会でもある。現代のエネルギー危機をいかに克服するかが、今後の日本の成長を左右しよう。

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