アングル:再び干ばつの夏か、気候変動による不作に直面する南欧

Kate Abnett
[ブリュッセル 17日 ロイター] - 南欧諸国はこの夏の深刻な干ばつを前に身構えている。すでに水不足に悩まされている地域もあり、農家はここ数十年で最悪の不作を予想している。
気候変動により、南欧では気温の上昇と少雨化が進んでおり、何年も続けて干ばつが発生することで地下水も枯渇してきている。スペイン、南仏、イタリアでは土壌が乾き切っている。河川やダムの水位低下により、この夏は水力発電量の低下も懸念される。
夏に向けて気温が上昇する中で、科学者らは、記録的な猛暑となった昨年に続き、欧州は再び厳しい夏を迎えつつあると警告している。昨年の猛暑が原因となった干ばつについて、欧州連合(EU)の研究者は少なくとも過去500年間で最も深刻だったとしている。
現時点で最も深刻な状況なのはスペインだ。
アリカンテ大学(スペイン)で地理分析を専門とするホルヘ・オルシナ教授は、「この夏、干ばつの状況はさらに悪化するだろう」と述べた。
しかも、根本的な干ばつの解消につながる降雨の可能性は、現時点ではほとんど期待できないという。「今年のこの時期にありうるとすれば、一時的、局地的な豪雨だけ。それでも降水量の不足を解決するには至らない」と、オルシナ教授。
スペインのルイス・プラナス農相は、ロイターが閲覧した4月24日付けの欧州委員会宛ての書簡の中でEUによる緊急支援を要請し、「この干ばつに伴う状況はきわめて深刻で、国内の資金だけではその影響に対処しきれない」と警告している。
<気候変動という潮流>
今年、深刻な水不足に見舞われているのは南欧諸国だけではない。「アフリカの角」地帯もここ数十年で最悪の干ばつに苦しんでおり、またアルゼンチンでも、歴史的レベルの干ばつにより大豆とトウモロコシの生産が大打撃を受けている。
地中海沿岸地域では現在、平均気温が150年前に比べて1.5度上昇。干ばつの頻度と深刻さは増大しており、気候変動がこの地域に与える影響をめぐる科学者の予測と一致している。
「気候変動の兆候という点では、私たちの予想ときわめて整合性が高い」と語るのは、ニューカッスル大学で気候変動の影響を研究しているヘイリー・ファウラー教授。
こうした予測は以前から示されていたにもかかわらず、対策は後手に回っている。農業が盛んな地方の多くでは、いまだに精密かんがいなど水資源節約の手法も採用されておらず、ヒマワリなど干ばつへの耐性の強い作物への転換も進んでいない。
仏ピエール・シモン・ラプラス研究所の所長を務める気候科学者のロベール・ボタール氏は、「各国政府の動きは遅い。企業も遅い」と語る。「水消費モデルの修正を検討すらしていない企業もある。彼らは、水を生み出してくれる何か奇跡的なテクノロジーでも見つけようとしているだけだ」
フランス政府系のウェブサイト「プロプルビア」によれば、1959年以降で最も乾燥した冬が過ぎた今、同国ではすでに4つの県で干ばつの「危機」警報が発令され、農業用水も含めて優先度の低い取水が制限されている。
ポルトガルでも早々に干ばつの到来に見舞われている。本土の約90%が干ばつに見舞われ、特に深刻な干ばつは国土の5分の1に及んでいる。これは1年前に報告された面積の5倍近い。
スペインでは今年4月までの降水量が平年の半分以下だった。少なからぬ住民が飲料水を給水トラックに頼っており、カタロニア州などの地方では給水制限をかけている。
農家の中にはすでに80%もの収量低下を報告している例もあり、複数の農業団体によれば、穀物や油糧種子が影響を受けているという。
欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(コパ・コゲカ)のペッカ・ペソネン事務局長は、スペインについて「ここ数十年で最悪の収量低下だ」と語る。「状況は昨年よりも悪い」
欧州委員会によれば、スペインはEU内のオリーブ生産の半分、果物生産の3分の1を担っている。
スペインでは貯水池の水位が平均50%となり、先週、緊急対応資金として20億ユーロ(約2980億円)以上の予算を計上した。さらに、EUの農業補助金予算から4億5000万ユーロの危機対応資金の配分を要請し、欧州委員会からの回答を待っているところだ。
欧州委員会では、状況を注視しているとしている。
欧州委員会のミリアム・ガルシア広報官は、「南欧諸国における深刻な干ばつを特に憂慮している。当該地域の農家だけの問題ではなく、EUの農業生産が大きく減少すれば、ただでさえ非常に高い消費者物価をさらに上昇させかねない」と述べた。
イタリアでは国内で供給される水の最大80%を農業部門が消費しており、スペイン同様の危機が予想されている。だが、今年は山岳地帯での積雪も少なく、土壌の含水量も少ないために、イタリアの農家は作付面積の縮小を予定している。種まきの予定に関する全国データによれば、夏季作物の作付面積は、昨年よりも6%縮小される見込みだ。
イタリア学術会議の研究ディレクター、ルカ・ブロッカ氏は、水不足が2年間続いたことで、北部イタリアでは積雪による保水量の70%、土壌含水量の40%が失われたと語る。
こうした深刻な水不足のために、イタリアでは、過去70年で最も深刻な干ばつに見舞われた昨年夏の状況が再現されそうだ。
「2022年が例外中の例外だったとすれば、今年はまた、異例中の異例ということになりそうだ」とブロッカ氏は語る。
(翻訳:エァクレーレン)

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