ソロモンの頭巾

原子力の世論調査 日本のエネルギー、諸相を照射 長辻象平

新規制基準の下で最初に再稼働を果たした九州電力の川内原子力発電所。国内の全原発33基中、これまでに再稼働したのは西日本の10基に過ぎない(2010年3月撮影)
新規制基準の下で最初に再稼働を果たした九州電力の川内原子力発電所。国内の全原発33基中、これまでに再稼働したのは西日本の10基に過ぎない(2010年3月撮影)

日本原子力文化財団(東京都港区)が2006年度から継続している「原子力に関する世論調査」の22年度版がまとまった。

約30の調査項目のうちから日々のニュースでも多く接する「高レベル放射性廃棄物(HLW)」「原子力発電の利用」の2テーマを中心に眺めてみよう。

回答者は15~79歳の男女1200人。全都道府県から無作為抽出された人々だ。その関心のありどころをはじめ、政府やメディア、電力事業者などからの情報がどこまで人々に届き、どのように受け止められているかも見えてくる。

核のごみ問題

HLWは原子力発電で生じる核のごみだ。1万年後にも放射能を持つため、ガラスに混ぜて固化体に加工した後、地下300メートル以深の岩盤に掘られた貯蔵施設に埋設される。

その処分施設の立地候補地探しで、第1段階の「文献調査」が北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で2020年秋から進んでいる。そこに今月、長崎県対馬市で文献調査への応募に向けた動きが加わった。

今回の調査でHLWに関する選択肢中、「聞いたことがある」の回答が多かったのは「処分地未定」(39・3%)、「青森県六ケ所村などで一時貯蔵中」(31・4%)で、「各国でも難航」(21・4%)、「関心を持つ自治体が存在」(21・1%)と続いた。

財団の分析によるとHLWについての情報浸透度は他の原子力分野に比べて低いという。とくに15~24歳の世代と25~44歳の世代では、ともに約60%の人がHLWに関する情報を全く持っていなかった。

「科学的特性マップ」の認知度の低さも顕著。聞いたことがあるとする回答は6・3%に過ぎなかったのだ。処分地の選定が3段階で進むことの認知も同率で、ともに今回の結果が最も低くなっている。

文献調査が諸外国並みに10市町村ほどで受け入れられ、その中から最適地を見つけたいという国の意向にもかかわらず、世間の関心は熟していない。

調査からの導出ではないが、6年前の説明会での不正動員以降、説明会の規模が縮小されている現状も情報浸透力のネックになっている可能性がありそうだ。

原発の再稼働

岸田文雄首相は昨年7月中旬、電力不足に備えて原発の再稼働を進める意向を表明。同月末のグリーントランスフォーメーション(GX)実行会議の初会合で再稼働の具体策とその先の展開策の提示を求めた。

これを受け、翌8月には経済産業省の審議会によって革新軽水炉や小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉など次世代原発実用化への工程表がまとめられた。

政府が長年、棚上げにしてきた原子力政策の議論への着手であり、ロシアのウクライナ侵略で認識されたエネルギー危機と、脱炭素に向かう国際経済の潮流に対応した動きだった。

今回の世論調査(昨年10月)で得られた原発再稼働に対する最多意見は「国民の理解は得られていない」(46%)で、「電力の安定供給を考えると必要」(35・4%)がこれに続いた。

再稼働を是認する意見では「原子力規制委員会の承認」(24・8%)を条件とするものや「地球温暖化対策のため」(19・9%)、「日本経済への負の影響回避のため」(18・5%)があった。

再稼働に反対する理由としては「HLWの処分の見通しが立っていない」(30・4%)、「福島第1原発の廃炉の見通しが立っていない」(29・3%)が2、3位を占め、「自然災害への対策が不十分」(22・5%)と「大事故への不安」(21・8%)とする回答がそれに続いた。

減る即時廃止

原子力発電の利用についての意見では、「徐々に廃止」(44%)が最多。「わからない」(28・8%)が次につけた。

その一方で「福島事故前の規模を維持」(12%)、「増やすべき」(5・4%)の声もあり、維持と増加を合わせると17・4%。この回答率は年を追って増える傾向を見せている。

これに対し「即時廃止」(4・8%)は、16年度調査の16・9%から年々、低下を続けている。

電気代も関心

原子力・放射線・エネルギー分野への関心事を問う設問では、1位が「地球温暖化」(52・8%)で「電気料金」(48・3%)が2位だった。

以下には「日本のエネルギー事情」(39・1%)、「電力不足」(38・9%)や、「放射線の人体影響」(36・8%)、「原子力発電の安全性」(33・2%)などが並んだ。

全37の選択肢中、「福島第1原発の処理水の処分」(28・1%)は11位。「太陽光発電」(22・1%)と「風力発電」(18・1%)は18位と23位だった。

社会の関心は「温暖化」「電気料金」「日本のエネルギー事情」「電力不足」など現実問題に向けられているが、その解決に通じるエネルギー源の見極めに、多くの人が戸惑っているようだ。調査はそのギャップを照射している。

この調査では複数選択可の設問も含まれる。全容は日本原子力文化財団のホームページ「世論調査」で閲覧可能。

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